「なんだって!?」
純一は喫茶店『すいません』で声を上げる。その声に周囲の客たちやウェイター達が注目する。
それに気がついた純一はぺこぺこ頭を下げながら席につく。
「それは本当なのか?楓・・・・・・。」
「はい、御父様が決めました。」
「・・・・・・。」
純一くんの結婚騒動大作戦!!
京介から見た純一の休日は我が家で楓といちゃいちゃとしているのが普通だった。だが、今日は違った。楓がいないし、何をしても上の空。
「どうしたの?純一くん。いつもなら僕が悪ふざけしてたら怒ってるのに?」
「そんな気分じゃねぇんだよ・・・・・・。」
哀愁漂う純一の言葉に、京介はぷぷと笑いながら
「もしかして、楓ちゃんにフラれちゃった?」
「っ!!」
その京介の冗談の台詞にも純一は京介に鬼気迫った顔で掴みかかろうとする。
「ふーん。新たなライバル出現って辺りかな?」
「っ!なんでわかるんだよ!?」
「純一くんって単純だからね。雰囲気や行動でわかるよ。ま、これも僕の経験の賜物かな!はっはっは!!」
と、京介は笑い飛ばすが、純一は気が気じゃなかった。
「じゃ、そう言うわけで、わけを話したくないならいいけど、話したくなったらいつでも言いなよ。僕は自室で溜めゲー消化してるからね〜。」
京介はそう言って自分の部屋に戻ろうとする。
「・・・・・・親父、楓が結婚させられるって知ってるか?」
ぼそりと言った純一の台詞に京介は振り返って
「知ってるよ。」
「えっ!?」
京介のあっさりとした反応に純一は逡巡する。
「知ってるよ。いつ話してくれるのかなぁって思ってた。でも、純一くんの傷に塩を刷り込む気もなかったからね。いつでもいいように構えてはいたけど、こんなに遅いとは思ってなかったよ。」
「傷ってわけじゃ______。」
「嘘だね。」
純一が言い訳をしようとするがバッサリと斬り捨てる京介。
「僕が何年、君の父親をやってるとおもってるんだい?僕だってバカじゃないよ?ま、いつもバカを演じてるけどね。純一くんのへこみようが尋常じゃなかったから、僕なりには動いた。奏さんにも聞いたし、他にもいろいろ動いたよ。」
京介はふふふと不敵な笑みを浮かべながら言う。
「純一くん。後悔の仕方って知ってるかい?」
「え?」
京介の顔つきが真剣になる。いつになく真剣な恭介の表情に、純一は驚きを隠すことができなかった。
「後悔ってのは、やらないでする後悔と、やってからする後悔がある。こう、付き合うって事は僕も経験したこともあるし、現在進行形で経験してるから言えるけどね。」
「けど、釣りあわねぇよ。俺は一般平社員の孤児の息子。対して、楓は大企業の御令嬢だ。」
京介はその純一の弱気な台詞に甲高く笑い始める。
「わ、笑ってるんじゃねぇよ!!」
「バーカ!バーカ!月並みな台詞だけどね。恋愛には障害はつき物さ。それを乗り越えてこそ。真の恋愛があるんだ。」
京介は笑いを堪えながら言葉を紡ぎ始める。
「純一くんは楓ちゃんのその親が決めた告白に何か対応したかい?」
「・・・・・・。」
「いや、していないだろうね。君は迷惑をかけるのを極端に嫌がる。僕を見てきたからね。んじゃ、言うよ。できることを全部やりなさい。それでも、楓ちゃんを諦めきれないなら、僕のところに泣きつけ!咽び泣け!そして、ひざまずけ!!さすれば、助けをしてやらんこともない。」
その倣岸不遜な京介の態度
「でもよ・・・・・・。」
いつになく、弱気な京介は、大きく溜息をついた。
「純一くん。立ちなさい。」
「え?」
「立て・・・・・・。」
京介の殺気のある台詞に純一はすぐに立つ。
「僕はね。そんな軟弱に育てた覚えはないよ。そんなうじうじする暇があるなら動きなさい。忘れられるぐらいに動いて、それで止まってしまいそうだったら、僕のところに来るといい。それまで、学校には僕が報告しておくよ。この家の出入りを禁止します。」
急な宣告に純一の顔は凍りつく。
「そんなっ!親父っ!!?」
「早く出て行きなさい。そして、自分のできることをやりなさい。それで手詰まりなら、僕が助けてあげる。」
京介はそう言って、純一を家から締め出した。
「あ、これね。サバイバルセット。一応、僕の伝手で公園にテントを立てられるように許可を出しておいたからね。んじゃ、頑張ってね。」
そう言って京介はドアを閉める。
「ちょっ!親父!?」
「・・・・・・。」
しかし、ドアは冷たく微動だにしなかった。
とりあえず、純一は魂が抜けた感じで街を徘徊した。そんな時
「お、純一ではないか?」
そんな魂の抜けた純一に話し掛けてきたのは亘理 達郎だった。
「あ・・・・・・達郎?」
「どうした?冴えない顔でもして・・・・・・?」
純一は何も答えない。
「ははーん。もしかして、吉川嬢にフラれたのかな?」
その言葉に純一の頭に血が上る。そして、純一は亘理に掴みかかろうとするが、小手を返されて逆に純一が羽交い絞めにされる。
「っ!!」
「ふっふっふー、甘いなー。それで山下先輩に勝ったのか?どんな卑怯な手を使ったのやら?」
達郎はそう言って純一を羽交い絞めにしながら言う。
「覇気のない純一など取るに足らん。どんな折り入った事情があるのかは知らんが、一人で溜め込むぐらいなら、誰かに相談してみたらどうだ?」
「達郎には関係ない。」
そう言って、腕を振り払って純一は街を徘徊する。
「ま、なんかあったら、相談しろよー。」
達郎はかんらかんらと笑いながら街並に消えていく。
今日は知り合いに会うことが多いのだろう。今度は山下 誠に純一は出会った。
「おっ、純一じゃないか?ついに私の心が通じたか?」
「すいません。そんな冗談に付き合ってる暇ないんで・・・・・・。」
純一はフラリフラリと誠の前を通り過ぎようとするが
「亘理くんに聞いたぞ。楓くんにフラれたんだってな?」
「ちっ、違う!!」
純一はまだフラれたわけじゃない。だが、心なしとそう思っている自分がいる。
「違わないな。はぁ、こんな軟弱モノに惚れた私もバカだったが、楓君が可哀想だな。こんな軟弱モノに惚れるとは楓くんもバカだな。」
達郎の時と同じように純一の頭に血が上るが、今回は尋常ではなかった。最愛の人が侮辱されたのだ。純一の怒りは尋常ではなかった。
「おや?怒ったか?はてさて、なぜ、怒るかがわからんな。私は真実を言ったまで、軟弱モノとバカなのは私と楓君だ。」
「楓を!馬鹿にするなっ!!」
怒りの混ざった拳を誠に振るう純一
「甘い甘い。その程度じゃ、私には届かんぞ。」
ひらりと交わす誠
「全く、私に当てられると思っているのか?」
「当てる!当ててみせる!!」
その言葉に不敵な笑みを零す誠
「ふむ、その程度の気概があるなら吉川家に乗り込めばいいではないか?」
「え?」
「良いか。恋に種族は関係ない。どこのお偉いさんが言ったかは知らない。だけど、おまえにも誰にでもその気概があればいいんじゃないか?例え、そうでも、どうせなら既成事実を作ってしまえばいい。」
「んなっ!?」
目に見えて純一の顔が赤くなる。
「じゃあ、改めて聞こう。楓君の事は好きか?」
「勿論だ!!」
「なら、当たって砕けて来い。」
誠の言葉にふと思い出す。『忘れられるぐらいに動いて、それで止まってしまいそうだったら、僕のところに来るといい。』と言った京介の言葉
「忘れてた・・・・・・。そう言うこと一つもやってない。」
そう言って、走り出す純一。それを見送る誠だが、携帯を取り出して
「あ、京介さんですか?」
『はいはーい。ごめんねー。わざわざ、手間取らせちゃってね〜。』
「全くです。敵に塩を振るなど。」
『大丈夫、同性の結婚なんて僕が決して認めないからね。』
「そこをなんとか!?」
『できません。君も本気だったら、何かしらアクション起こしてるでしょ?』
そう、話し相手は京介だ。京介の諭しに誠もふと笑う。
「そうですね。あとはどこまで純一が動くかですね?」
『その通り。僕の手を煩わせるほどにならなきゃいいけど。』
「とか言って、既に動いているあなたですよ?」
『はっはっは、まぁね。』
当の純一は吉川邸に来ていた。
「ですから!楓に会わせてください!!」
「ならん!どこの馬の骨か知らない人間に結婚前の楓にあわせるわけにはいかん!!」
玄関の門で口論を起こしている純一と楓の父『吉川 元信』がいる。
「何処の馬の骨って、俺は人間だ!!」
その通りだが、この素ボケは痛烈だった。
「屁理屈をこねおって!!」
「大体、なんで、俺と会ったら駄目なんですか!?」
「楓は嫁入り前だ!どこかの知らん男になびくぐらいなら、家から出さないほうがマシだ!!」
結局、純一は中には入れてもらえなかった。そして、家から追い出されているため、近くの公園で野宿をしていた。
「純一さん?」
そこに現われたのは奏だった。
「奏さん?」
「聞きましたよ。今日、吉川の屋敷に来たって。」
「はい、追い返されましたけどね。」
純一はしょんぼりとする。しかし、奏は
「楓さんに会いたくありませんか?」
「会いたいに決まってる!!」
「なら、着いてきてください。」
そう言って、奏の後に続く純一。気が付けば、奏はメイド姿だ。と言うことは業務中だということが明らかだ。
「純一さん!!」
「楓!!」
と、無心で抱き合う2人だが
「時間がありません。私の言うことを聞いてください。」
そんな中、冷静な声が奏の口から放たれる。
「・・・・・・。」
純一は家に戻っていた。純一が家に帰ると京介はすんなりと家に入れた。
「ふーん。奏がねぇ〜。」
事のあらましを聞いた京介は少し面白くなさそうにコーヒーを口にする。
「親父は知ってたんだろ?」
「うーん。奏が動いていることは知らなかったけどね。」
京介の言葉だが、今回だけは信用できなかった。いつも、適当な嘘をついたりする京介。その裏で何か動いているような気がした。
「ま、やるべきことをやってきたんだったら、僕は何も言わないよ。」
「ああ、いや、まだ、やるべきことが残ってるんだ。下準備だけどな。」
「なら、さっさとしてきたら?学校には休学届を出してあるからしばらく自由にはできるよ。でも・・・・・・。」
「わかってるって、長丁場になったら、追い返しが厳しいんだろ?」
純一ははっきりと言う。京介は少し安心した表情で
「わかってるなら別にいいよ。」
「んじゃ、行ってくる!!」
そう言って純一は家を出る。純一が出て行った後、京介はベランダから外を見ながら
「さて、どう転ぶかね。ま、少なくとも元信の好きにはさせないけどね。」
不敵に笑う京介だったが、突然、携帯が鳴る。
「はいよ。京介様だよ?」
『てっめぇは、いつになったら出社して来るんだ!このクソボケーーーーーーーーー!!!!!!』
つんざくな声が京介の耳に貫通する。
「真一、ゴメンゴメン。ちょっと、マイサンの問題でちょっと出社遅れたり、休んだりする。ゴメンね。電話しなくてね。」
『ん、純一くんの事か?』
「まぁね。社長不在ってのも大変だろうけど、困ったことがあったら連絡してよ。すぐに対応するからさ。」
『ん、わかった・・・・・・おまえも大変だな。』
「いや、自分で選んだ道だから後悔してないよ。」
『あっそ、んじゃ、なんかあったら連絡する。』
「よろぴくー。」
そう言って、通話が終わる。
「会社行こうかな。」
と、ぼやく京介だった。
そして、楓の父『元信』が純一の行動が穏便となったことに不信感を覚えつつも結婚式当日になった。
「ああ、今日も綺麗だよ。僕の楓。」
と、キザったらしい台詞を吐く。楓の婚約者『伊集院 光成』が言う。この伊集院とはISNカンパニーと言う吉川エレクトロニクスと双肩を並べる会社で、政略結婚という形で結婚式が執り行われている。しかし、楓の表情に喜びはない。ただ、期待と言う二文字だけ、純一と言う王子が捕らわれた姫を助けに来るかのようにだ。
「・・・・・・ふふっ、その気丈な表情も素敵だ。じゃあ、また後で来るよ。」
「楓、そろそろ、諦めたらどうだ?」
「必ず、純一さんは来ます。私はそれを信じています。」
「楓・・・・・・、純一さんは必ず来ますよ。」
「ありがとう。お母様。」
と、唯一、励ます楓の母『吉川 幸枝』が言う。現在の楓にとっては幸枝が唯一の心の支えである。
「新郎新婦の入場です。準備を・・・・・・。」
と、ボーイが部屋に入ってくる。
「はい。」
ついにやってきた。チャンスはここじゃなくてもいいのだが、奏はここでやったら盛り上がると言っていた。だから、楓も腹を括る。実際、そんな場合ではないのだが・・・・・・。
教会の外で楓と光成は扉の前に立つ。そして、結婚式の曲が教会から響き扉が開く。
そしてバージンロードを歩く二人だが、その途中に邪魔をする人間がいた。
「じゃんじゃじゃーん。」
と目の前に立ったのは京介だった。
「よぅ、伊集院くん。僕の息子の彼女に手を出すなんて知っての上でやってくるとは大胆だね。」
バージンロードは神聖な道、それを邪魔する人間がいるとは思っていなかった。
「っ!片島京介!!」
そう言ったのは光成ではなく楓の元信だった。
「よっ、社長、元気してる?」
軽い感じで京介は挨拶代わりに片手を上げる。
「おまえ、何のつもりだ?」
「いや、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえとか、ナントカ?」
京介はニコニコと笑いながら言う。
「誰か!こいつをつまみ出せ。」
黒服のガードマンが2人ほど京介に向かっていく
「ふっふっふ、純一くんの出る幕もないようにしてあげるよ。」
不敵に笑う京介。すると、掴みかかってきたガードマンを
「僕は昔、ワルだったんだよねぇ。」
すると、ボクシングのスタイルを構えて見えないぐらいの早さで拳を繰り出す。
「ぐわっ!?」「うおっ!?」
そう、京介は2人のガードマンを昏倒させる。あごに当てた一撃は重かったようだ。
「元信くん。久しぶりだね。」
「ぐっ、また、おまえは邪魔をするのか!!」
京介はふふんと笑って
「おやおやぁ?僕はそんなつもりはないよ。僕は僕の正しいと思ったことをしただけさ。」
ガヤガヤと騒ぎ始めるギャラリーに京介は
「しずまれぃ!ここにいる僕をどなたとおおせる!?そこらへんの大将軍『片島 京介』ちゃん。なるぞ!!」
どこかの御老公が身分を明かすようなことを言うが、イマイチ緊張感に欠ける言い方だ。だが、ギャラリーを落ち着かせるには十分だった。ところかしこも笑い始める。
「親父!てっめぇ!なにしてやがんだ!!!」
と、現われたのは教会の出入り口付近で肩で息をする純一だ。
「純一さん!!」
そう言うと、楓は純一に駆け寄ろうとするが
「!?」
「悪いけど、私と楓の婚儀を邪魔させるわけにはいかない。」
先ほどまで影がなかった光成が楓の腕を掴んでいた。
「貴様っ!!」
「おーおー、この物語始まって、初めてじゃないのかい?こんな複雑な展開になるのって・・・・・・。」
京介は遠い目で純一と光成のやり取りを見ている。
「あなたがこじらせているんでしょ?」
「あ、奏、おは〜♪」
やんわりとした感じで奏に挨拶する京介
「おは〜♪・・・・・・っていってる場合じゃないわよ。どうするのよ?この状況?」
奏は少し疲れたような目付きでギャラリーを見る。
「それは、僕と奏の愛でカバー。」
「あ、愛って何よ!?ちょ、ちょっと、勘弁してよね!!」
奏は突然の言葉に、顔を紅くして焦り始める。
「お、今はやりのツンデレか!?」
「ツンデレって何よ!?」
「ツンはツンドラ針葉地帯、デレはデレク・ジャーマン監督(実在)。」
実際はツンツン・デレデレだが、ここまでマイナーともメジャーとも言い切れないものを出す京介の博識さに感慨を覚える。京介の近くにいるギャラリーがいた。
「そのいい加減な知識を私に吹き込まないでくれる?」
もちろん、そんな偏った知識など取り入れる楓でもなかった。
「仕方ないなぁ。じゃあ、本当の事を教えてあげよう。ツンはツンベルギアと言う植物で、デレはサンタマリア・デレ・グラツィエ教会。」
「どんどん、ディープになっていくわね。」
既に楓は信じきっていない。
「・・・・・・侍女長!そいつを捕まえろ!!」
瞬間、元信が奏に言うと京介は奏が伸ばした手をいとも簡単に避けて
「ふぅっ」
京介は奏の首元に顔を近づけて
「きゃああぁっ!?何すんのよ!?」
軽く耳に息を吹いたのだ。
「ふっふっふ、さすが奏の性感帯だね。」
怪しく笑う京介に、思わず、身じろぐ奏
「ええ、我慢ならん!大学時代から邪魔をしよって!!」
激昂する元信が京介と奏の間に割って入る。
「ほっほぅ、高校時代に会長選挙で僕に負けた年上の先輩が、今度は権力を使って我が子の恋路を邪魔するのかい!?」
京介は偉そうに仁王立ちしながら言う。
「えぇい!うるさいうるさい!!今日こそ決着をつけてくれる!」
そう言って、人差し指を差す元信だが
「・・・・・・えい。」
と、京介は変な方向に人差し指を曲げる。鈍い音はしなかったものの元信は指を抑えて悶えている。
「全く、君は前と変わっていないな。人差し指は人に向けるものじゃないよ。イギリスとかあっちの方面では人に指を差すということは人を呪うと言うことだよ。失礼千番極まりない。」
そう言って腕を組んで京介は元信に説教を始める。
「京介くん。そのぐらいに・・・・・・。」
そこに現われたのは元信の妻、幸枝さんである。
「あ、幸枝さん。お久しぶりです。」
「ええ、お久しぶりね。で、これはどういうことなの?」
「まぁ、愛しい我が息子が、この結婚式をぶち壊してまで楓ちゃんを取られたくないと言うことですよ。」
そう言うと京介は
「へぇ、やっぱり、あの2人はデキていたのね。」
面白そうに幸枝は笑う。
「だから、元信さん。やめましょうって言ったんですよ。恋愛はあの個の自由です。ただでさえ不自由な生活を強いているんですから相手ぐらいは恋愛ぐらいは多めに見てあげましょうよ。」
そう言うと元信は強情にも
「ならん!なんで、こいつの息子、いや、孤児相手に楓をやらなきゃなら・・・・・・!?」
急に元信が言葉を止める。いや、止められた。京介が襟首を掴んで自分のところに持ってきたのだ。そして、眼前まで持ってきて
「吉川元信・・・・・・。」
口論していた純一達も注目してしまう。純一にとって・・・・・・いや、京介を知る人なら始めてみる表情だった。一目でも分かるほどに、かなり怒っている。
「あなたは人の身分や過去で全てを決めるのかい?」
「ぐっ、そ、それは・・・・・・。」
思わず、言葉を止めてしまう元信。元信と京介は初対面では無さそうだ。その元信でさえ始めてみた京介の怒りに動揺する。
「君は今、純一くん、いや、楓ちゃんを侮辱したんだよ。孤児を愛する道理はないって言ったのも同義だ。それはなんだい?言い方を替えてしまえば、親から暴力を受けてトラウマを持った子を愛してはいけないと言っているものだよ。誇張表現だけど的は得ているはずだよ?」
恐怖の他ならなかった。本当に怒っている京介に全員は竦んでしまう。
「京介、そのぐらいにしてあげたほうが・・・・・・。」
「駄目だよ。偏見と言うのはできる限りなくさなくちゃいけないんだ。」
奏の言葉に京介は耳を貸さなかった。だが、すぐに元信の襟首を掴んでいた手を離す。
「・・・・・・ごめん。少し頭に血が上っちゃったよ。僕はこれで退散するね。あとは本人達の問題だからね。」
そう言って京介は駆け足で教会を出て行った。
「元信さん。京介くんの言っていたこと、わかりましたか?」
「あ、ああ、わかっているよ。伊集院さん。今日の結婚式は延期にさせてもらえないか。このようなことを言うのは失礼だと言うことはわかっている。」
そう言ってISNカンパニーの社長らしき人に頭を下げる元信
「・・・・・・構いませんよ。私としては光成は楓になびいています。ですが、これは彼らの問題です。あの京介と呼ばれた人のように、私たちも考えなければいけませんね。」
そう言ってISNの社長はやんわりとその申し出を受け止めた。
「そんな!僕の結婚は!?」
「勿論、延期だ。光成。そうだね。この後の事は子供達に任せて私たちは帰ろうか。」
そう言って大人や参列していた人間達は帰路を辿った。
その後、着替えなどで遅くはなったが、喫茶店『すいません』で、1テーブルを囲んでいた。
「ISNカンパニーの御曹司『伊集院 光成』だよ。ライバル!」
「あー、一般平社員の息子『片島 純一』だ。光成さん。」
こう見えても光成は成人男性だ。そのため、純一は恋の宿敵にも関わらず敬語で話す。しかし
「やめたまえ。僕と君は恋の宿敵と書いてライバルと読む!下手な気遣いはいらないよ!!」
と、ニヒルな口調だが、本人はいたって真面目。小型の京介みたいなものだ。
「でも、こういう形でも嬉しいよ。僕にライバルができて、今までの人生、張り合いがなかったからね。君みたいな人が出てきて嬉しいよ!まぁ、勝つのは僕だけどね!!けど、よろしくね!!」
そう言いながらも握手を求める光成。純一も光成のテンションに圧倒されながらも握手をする。すると、身を寄せられて光成が純一の耳元で
「てめぇなんか、ぶっ潰してやるよ。」
生々しい宣言を聞く羽目になった。純一もただで黙っているわけじゃなかった。
「よろしくね。」
「ああ、よろしく・・・・・・な!」
「っ!?」
純一は笑顔だが額に青筋が浮かんでいる。楓は微笑ましい光景だと思っているが、裏側はそうでもなかったりする。
『てめぇなんか、ぶっ潰してやるよ。』
『大人しく黙っていると思っていると思うなよ年増。』
視線がスパァクしているのである。だが、侮っていけないのは
「喧嘩は駄目ですよ。」
その暗黙の冷戦を見抜く楓であった。
「「あ、あはははははは」」
2人は苦笑いするが、楓が見えていない足場で蹴り合い始まっているのは言うまでもない。
「と言う最終回なんだけど?」
京介はコーヒーを飲みながら原稿を読み終える。
「ないね。なんだ?その後腐れ感、バリバリあるじゃん。」
そこにいるのは純一と楓だ。
「バリバリって古い言葉使うね。」
「うっ、別にいいだろ?ってか、実話をそのまんま使うなよ。脚色とかは?」
純一はソファに寄りかかっている。当の楓は、純一の膝枕でお休み中だ。
京介が口を開こうとをしたそのとき
「やぁ!愛しのマイスイート!」
と、花束を持って現われたのは伊集院 光成だ。
「てめっ、どうやって入ってきた!?」
「僕が合い鍵あげた。大体、楓ちゃんはこの家に来るからね。フェアじゃないでしょ?」
純一は一瞬でも京介を殴りたかったが、膝枕をしている状態だと動くこともできない。
「ちっ、楓さんを膝枕しているなんて、調子に乗るなよ。」
「貴様のその裏表がはっきりした性格をどうにかしたら楓もなびくんじゃねぇの?」
皮肉で返す純一。青筋を浮かべる光成。しかし、すぐに我に返って京介に体を向ける。
「だけど、本当によかったんですか?合鍵を渡すなんて無用心ですよ?」
「言ったじゃないか。フェアじゃないってさ。僕はそれについては全くの無干渉を装わせてもらうよ。僕はあくまで純一くんの手で道を決めてもらいたいし、そろそろ、僕の出る幕も無くなって来たからね。」
そう言うと京介は自分の部屋に篭もる。
「片島・・・・・・純一と言ってたよな。」
「名前覚えろよ。健忘症か?」
光成は純一の皮肉を軽く聞き流し
「これを渡しておく。」
そう言って渡されたのは一枚のプラカードだ。
「僕の家のIDカードだ。それがあれば、入ることができる。」
「・・・・・・どういうことだよ?」
「君の父親はフェアじゃないと言ったが、僕はそうは思わない。だから、君も僕と同じ立場になってもらう。」
光成は少し複雑そうな心境だったが、純一は光成とIDカードを何度も見て
「・・・・・・ふんっ!!」
「あっ!」
純一はIDカードをへし折った。
「そっちはフェアじゃないって言ったけど、俺は俺なりにフェアだと思っている。そっちは社会人、こっちは学生。だけど、社会人には社会人なりの特性があるし、学生は学生の特性がある。だから、うちの親父が、合鍵を渡してやっとフェアだと思う。」
さぁ、新たに現われたライバル。純一の唐突な日々はまだ続く。
「あ、光成くん。純一くんから楓ちゃんを奪っていったら、命はないからね。」
と、自室から顔を出して笑顔で言う京介
「「早速、脅迫発言!?」」
光成と純一が何気にいいコンビなのは、また別のお話