時代は現代、しかも不景気。この時代で職を探すのに一苦労する。職を採用されても上司にごまを擦らないと見事に今はやりのリストラという動物的名前を宣告されてしまう。この話はそんな不景気な中、一生懸命生きている人たちのお話。

 そんな不景気な世の中、青年は目を覚まして時計を見ると6時となっていた。彼はまだ高校1年生になったばかりだ。彼の名は『片島 純一(カタシマ ジュンイチ)』という。
「おはよ、親父」
「ごきげんよう。我が息子…。」
 台所には女性受けしそうな成人男性が立っている。どうやら、彼は朝食の準備をしているらしい。
「なんだ?その薔薇様みたいな言い方は?」
「なんとなく、そんな気分なんだ。」
 そういって純一の父親『片島 京介(カタシマ キョウスケ)』はテーブルに朝食を置く。
「学校はどうだ?」
「んー、微妙、まだ、入学したばかりだし」
「そうか。友達100人できたか?」
「気が早ぇよ。」
 京介は残念そうな顔をするが
「あー、今日は用事あるのか?」
「ん、別に、用事なんてねぇけど…。」
「んじゃ、今日は家に帰ったら、ずっと居てくれ。ちょっと、折り入った話がある。」
 京介はそう言うと壁にかけてある車のキーを取る。
「もう出勤かよ?」
「これでも一企業の平社員なの!」
 笑顔で言うが、純一には平社員だとは到底思えない。
「なら、車で出勤する奴がいるかよ?」
「はっはっは、気にするな。少年!」
 そういって京介は出て行った。



片島純一の唐突な突然



 そして、純一は学校を終えてから直ぐ、家に帰っていた。
「ただいまー。」
 元気の良い声が玄関の方から響き渡った。
「お、ほんとに珍しく早く帰ってきたな親父。」
「そうだろう?そうだろう?」
 京介は偉そうにふんぞり返るが
「話ってなんだ?」
 そんな事を無視して話を進める純一
「うぐ、いきなり核心を突いたな。」
「ああ、早く帰ってきたんだ。」
「それはな・・・。」
 その京介から紡ぎ出される言葉に純一は期待した。
 しかし、純一の期待は早くも裏切られた。
「実は君、養子なんだよね。」
「はい?」
 しばらくの静寂、純一は頭を振って再度京介の顔を見る。
「まぁ、いきなりでびっくりするだろうけど、そうなんだよ。高校生になってから言おうと思ってだからね〜。」
「じゃあ、母さんが居ないのは…。」
「そ、僕も知らないし、調べてもわからなかったしね。」
 ということはだ。純一は小さい頃を思い出す。

 純一は小学校に入ったばかりだった。そんなある日
「ねぇ。とーさん?」
 純一は父親である京介を訪ねた。
「ん?どうしたんだい、純一?」
「なんで僕の家に何でお母さんが居ないの?」
 京介は凄い遠い目をして
「それはね。『日本は孤児はいるけど、戦災孤児はいない!』って、言って国会議事堂に殴りこみに行って帰ってこないんだ。」
 実際にそうだったら物騒である。
「じゃあ、お母さんはそれが終わったら帰ってくるんだね?」
「さぁね。」
 京介は敢えて視線を合わせないで言った。

「純一?」
 京介に話し掛けられて、ふと我に返る純一
「って事は小さい頃の国会議事堂は嘘だったのかよ!?」
「いや、普通に考えたらわかるっしょ?」
 京介はまるで自分は『常識人だ』と、言わんばかりだが
「親父ほど、ぶっ飛んだ考えの人は滅多に居ないが、昔からそうだったもんな。」
「純一、僕は小学校6年生の時で気がつくと思っていたよ。」
「え?そうなのか?」
 そう、京介は髪の色は天然の濃い茶色だが、純一は純日本製を漂わせる黒い髪だ。
「まぁ、君ほどの天然も居ないということだよ。最初に気が付かれると思ったのは小学校6年生のときだよ。」
 思い返す京介だった。

「父さん。なんでオレの髪と父さんの髪の色は違うんだ?」
「それはね。父さんの髪の毛が光合成を行っているからだよ。」
 いかにもアホな答えである。

「思い出した?」
「ああ、そういえば、そんなこと聞いたこともあったよな…。」
 純一はテーブルに突っ伏している。思い直しているのだ。いかに自分がバカだったのか。
「んで、純一から何か言いたいことはあるかい?」
 京介は打って変わって真剣な表情で純一を見た…。

 京介の真剣な表情に純一は答えた。
「感謝してるよ。と、言いたいんだが、俺を誘拐したとかないよな?」
「疑心暗鬼にも程があるよ。大丈夫。君は孤児院で見つけて、3歳ぐらいか。その時に、君を養子に引き取ったんだ。」
「孤児院って、どこだ?」
「…ふっ。」
 京介は敢えて、視線をそらして遠い目をする。
「お、おい!ちょっとまて!引き取った場所を聞いているのに何で口を閉ざすんだよ。」
 純一は京介のシャツの襟を掴んで前後に振る。
「潰れたよ。」
「え?」
「こんな経営難な世の中だ。孤児院だって生きていくのも並じゃない努力が必要なんだ。」
そういって乱れたTシャツ、ネクタイを治す京介。
「なぁ、親父?」
「ん?」
「ありがとな。」
「ははは、改めて言われると恥ずかしいね。」
 京介は照れ隠しか背を向けて自室に戻ろうとする。
 だが、それだけで信じる息子じゃなかった。
「んで、今度は何企んでるんだ?」
 が、しかし、純一は京介の肩を掴んだ。
「…僕ってそんなに単純に見える?」
「見える。」
「はぁ、確かに僕はいつもろくでもないことしてるけど、さすがに今回は真面目な話だったんだけどね。」
 京介は暗い雰囲気を背負いながら今の隅で「の」の字を書いている。
「じゃあ、親父、聞きたいんだが…。」
「なんだい?」
 京介は立ち直りが早い。すぐに暗い雰囲気を消し去って、純一に詰め寄る。
「親父はバツイチなのか?」
「いんや、バリバリの独身だよ。」
 京介はVサインをして言う。
「は、バツイチじゃないのに俺を引き取ったのかよ!?」
「うん。そうだよ。僕は結婚したことないし…。」
「じゃあ、なんでだよ?」
「仕事でね。君が昔いた孤児院に言って君に一目ぼれ。」
 そういった瞬間、純一に両肩をつかまれる京介
「俺は親父に開発される気なんてねぇぞ……。」
 鬼気迫った顔で純一は言うが
「あはははー、冗談だよ。その孤児院ね。もう、僕が訪れたときには殆どの子供は引き取られていてね。その中で僕は君を引き取ったんだよ。」
「んじゃ、そのまま引き取られなかったら…。」
「まぁ、僕の息子じゃなかっただろうね。いいかい、僕だって気まぐれで引き取ったわけじゃないよ。僕は君がこの先、どんな危ない目にあっていくのかが心配だったから君を引き取ったんだ。」
「んじゃ、なんで俺が無免でバイクを運転して捕まったときに怒らなかったんだよ?」
「それは緊急手段だったんでしょ?なんだっけ、吉川 楓(ヨシカワ カエデ)ちゃんだったっけ?」
「ちょっとまて、なんで息子の彼女の名前知ってるんだ?」
「ああ、この前にね。」
 回想し始める京介だった。

 京介は日曜日は休みで家でゴロゴロしていた。本当にゴロゴロしていた。じゅうたんの上でテレビを見ながらゴロゴロしている。
「ピンポーン。」
 京介はブザーを聞くと玄関まで向かって
「はいはい?」
 扉を開けるといかにも令嬢と言った雰囲気の女性が立っていた。
「…あ、純一君のお父さんですか?」
「いやいや、僕は純一君の兄貴だよ。」
「え?純一君は一人っ子だって…。」
 令嬢は不安な視線で京介を見るが
「まぁ、純一君なら『今日は俺が家の掃除をするんだから親父は黙ってゴロゴロしてろ』って言われてね。」
「親父?」
「あ!しまった。僕が純一君の父親だって言うのはトップシークレットで!ダメ?」
 令嬢はふふっと笑って
「あ、私、吉川 楓って言います。純一君のお父さん。」
「ああ!義理の父と書いて『お義父さん』!いいねぇ!!」
 身もだえする京介にふふっとわらう楓。
「で、純一君は?」
「友達と遊びに言ったよ?聞いてないの?」
「そうなんですか…。いえ、私も予告なしに楓君に会いたくなりまして…。」
 照れくさそうに楓が言うと
「うーん。まぁ、仕方ないんじゃないかな。なんだったら上がってく?」
 京介がそう言うと楓は頷いた

「息子の彼女、勝手に自分の家に連れ込んでいくんじゃねぇ!!」
 怒鳴りながら京介に鋭いアッパーカットを純一はするが、ひらりとかわす京介
「まぁ、雑談してから帰ったけどね。」
 そんなアッパーカットを眼にも止めずに言う京介
「はぁ、じゃあ、適当に帰ったんだな?」
「そのとーり。学校での純一君の話聞けたから大収穫だったけどね。」
 京介はそう言って自室に戻ろうとしていた。
「はぁ。楓が俺の家に来てたとは…ってか、親父は別に付き合ってることには関与しないのかよ!?」
「別にいいんじゃない?学生の恋は必要だよ。僕は君の生きたいように生きていけばいいと思う。」
「親父…。」
 その京介の言葉に感動する純一だったが
「できちゃった結婚とかしたら、僕はかかって来いって感じだし。」
「ブーーーーーー!!!」
 たまたま口をつけた紅茶をふきだす純一だった。
「親父!!」
「あははー、楓ちゃんによろしくね!ちなみにお義父さんって呼んでくれてオッケーって言っておいてね!」
 そう言って自室にこもる純一だった。
「けど、改めて感謝してるぜ。親父…。男手一つで俺を育ててくれたことを…。」
 そう独り言をつぶやく純一だったが
「ありがとう!!」
 自室から顔だけ出す京介がいた。
 その時にもう一度純一が紅茶を吹いたのは言うまでもない。


戻る