蒼天、それが似つかわしいほど良い天気だった。
「なぁ、高津?」
「あん、どうした?我が友、吉川 正則?」
 蒼天、それが似つかわしいほどに憎らしい天気だった。オレは親友であり悪友である『高津 将太』にはっきりとした言葉を継げる。
「なんで、オレはお前と山登りなんてしていかないといけないんだ?」
「な!おまえは何を言っている!おまえの親父様が『おまえはもっと体力をつけなくてはいかん!!』って言って、山登りという登山家も喜ぶ富士山を登っているんじゃないか!」
 と、熱説する高津。何を言おうともこいつは大の登山家で、大きな休みがあれば海外まで登山しに行く登山バカなのである。
「勝手にモノローグをつけるな。」
 読まれた!?こいつエスパーか!?
「おまえの考えていることなど顔に出ているわ。」
 ちょっとショックだが、こいつは中学時代からの友人だ。高校になった今でもクラスは同じという因果を感じるが、仕方ないのだろう。
「それより、富士山で喜ぶところなのか?」
「それは判断しかねるな。富士山といっても、最近は観光客で来る人間も多い。そして、心無い観光客によってゴミも増える。それを考えると今の富士山も微妙なところだな。」
 やけに説明的だが、こいつのクセだ。いつも説明的ではあるが言うことに的は得ている。さすが、校内の学力で上位に値するだけある。
「まぁいい。登ったらさっさと帰るぞ。帰って早く見たい特撮があるからな。」
「帰るって今日旅館だろ?」
「その通りだ。だから、旅館で見るんだ。待っていろオレのいとしの『匿名戦隊シークレットボーイズ』」
 なぜ、戦隊モノなのに『〜ジャー』ってつかないのかは疑問だが、今の高津の流行らしい。



 能ある鷹は爪を隠せない



 土曜に登山、日曜は休養。そして、月曜は学校。という訳で、西崎私立角森高校の2−Cの教室の片隅でオレは寝ていた。もちろん、授業中に・・・・・・。もっと言うなら朝のホームルームで先陣を切って寝ていた。
「おい!吉川!吉川!誰か起こせ!!」
「はっ!この不肖、高津 将太。愚帝『吉川 正則』を起こして見せましょう!!」
 と、やけに軍隊じみたような言葉で高津は言う。あいつの起こし方は尋常じゃないのでオレものっそりと頭を上げる。
「はぁ〜、なんですか〜。吉川先生〜。」
 吉川先生。男言葉だがれっきとした女性だ。そして、名前の如くオレの姉ちゃんでもある。名前は『吉川 静香』。名前とは裏腹に活発な性格をしている。
「転校生が来たから、おまえの隣に座る。教科書は明日届くから今日は見せてやれ!」
「りょーかーい。」
「吉川!!!」
 やる気の無いオレの言葉に静香先生はオレを一喝する。
「わかってますって、今日はちゃんと起きてますよ。オレの精魂が尽き果てなければ・・・・・・。」
 そう言って、オレは背筋を伸ばす。そして、隣に座っていたのは黒いロングヘアーに整った顔つき。恐らくは先ほど、男子生徒がオレの睡眠を邪魔するぐらいに騒いだのは、綺麗だからであろう。そして、男子生徒から向けられる視線は・・・・・・イタイ。
「『川原 裕香』です。よろしくね。」
「あー、吉川 正則だ。よろしく。」
 当り障りの無い自己紹介をする。そして、ホームルームが終わると男子女子、両生徒が川原の周りに集まる。
「何処から来たの!?」「前の学校はどうだった!?」とか、騒がしい。オレは五月蝿いので食堂まで移動することにする。
「あー、牛乳売り切れてら・・・・・・。」
 食堂の自販機で牛乳を買おうとするが、全部売り切れになっている。だれだ?そんな牛乳を売り切れにするほど飲む馬鹿は?
「よぅっ、吉川君じゃないか?」
 そこにはショートヘアーで銀縁眼鏡の女性が扇子を持って立っていた。
「あ、これはこれは、悪名高い新聞部部長の『大河原 渚』さん。またの名を『千里眼』と呼ばれるお方ではないですか?」
 オレは皮肉じみた言い方で渚さんに言うが、それほど仲が悪いわけではない。これが彼女とのコミュニケーションと言った方が正しい。
「酷い言われようだな。吉川くん。君ほどの有能な人材さえいれば、我が新聞部も安泰だというのに・・・・・・。」
 この新聞部部長は、独自のネットワークで学校内の情報を持ってくる。そして、教師達よりも早く学年テストの順位を知る。ネットワークいえどもとんでもない存在でもある。
「何をいいますかね。この腹黒部長は、懐刀を持っておいてそんなことを言うとは嘘八百だな。」
「また、君も古い言葉を使い始めるね。まぁ、確かに懐刀は1本ある。だが、保険というのは安ければかけておきたいものだろう?」
「言いたい事はわかりますけどね。オレは何処にも属しません。」
「ほぅ、フリーランスでもやるのかね?」
「フリーランス?」
 フリーランス?自由の槍?どういうことかわからなかったので普通に聞き返す。
「そうだ。自由傭兵と言ってな。何処にも属さない。そして何処にでも槍を向ける。だから、自由傭兵と言うんだ。」
「へぇ〜。マメ知識に入れときますね。」
「そうしておくんだな。」
 そう言って渚さんは去っていく。
「あの人、何のようだったんだろう?」
 そして、直ぐにチャイムが鳴ったおかげで牛乳を全部飲みきれなかった。

 そして、1時間目が始まる。オレは川原に教科書を見せておきながら、俺は窓の外のグラウンドを眺めている。
「なんかダルそうだね。」
「べっつにー。やることも無いから眺めてるだけ。」
「へぇ〜、じゃあ、テストにも余裕あるんだ〜?」
「そうじゃねぇよ。オレは夜型なの。こんな真昼間に勉強するより、夜勉強したほうが頭に入りやすいの。」
「ほら、そこ!喋ってないで授業に集中しろ!」
 と、先生に注意される。周りからクスクスと笑い声が聞こえるが、オレは軽く流す。一方、川原は少し頬を赤らめている。
 そんな中、終了の呼び鈴が鳴る。
「では、授業を終わる。」
 そう言って先生は教室から去っていく。
「あーあ、お前のお陰で、川原さんが怒られたじゃないか!腹切ってわびろ!」
 と、高津が言う。おまえ、そんなにミーハーだったか?
「いや、そこまでする義理は無いだろ。ま、悪かったな。川原さん。」
 そう言うと川原は
「ううん。そんなこと無いよ。話し掛けた私が悪いんだしね。こっちこそ、ごめんなさい。」
「おう。」
「ああ、なんてありがたきお言葉。だから、正則は切腹しろ。」
「いや、脈絡ねぇし、あげく、何で切腹にこだわるんだよ?」
 すると、高津は沈黙する。そして、考え込んでから
「なんとなく・・・・・・?」
「おまえが切腹しろ。」
「わかった!」
「納得すな!」
 すると、川原はオレ達のやり取りにくすりと笑う。オレと高津は不思議そうに川原を見るが
「あなた達って、仲いいのね?」
 そう言われてから高津は直ぐに口を開いた。
「おい!高津!おまえのせいで、オレとお前が同類にされたじゃないか!切腹してわびろ!」
「だから、なんで、切腹に拘るんだよ!?」
「いや、昨日、忠臣蔵見てたから・・・・・・。」
 オレはノートを丸めてパコンといい音を鳴らして
「関係ねぇ!」
 ツッコミをいれる。
「バカを言うな!忠臣蔵を見て泣かぬ奴はいないぞ!」
「いや、それもどうよ?」
 そんなやり取りをしてしまい授業始まりの予鈴がなってしまった。勿体無い。

 放課後、オレは適当に校内をぶらついてから帰ることにした。
 そんな帰り道に・・・・・・。
「ねぇ、彼女〜?僕達といいことしなーい?」
 三流文句、ここに極まれりと思った。本来なら関わるのも面倒なので放置していくのだが、今回だけは見過ごせなかった。
「す、すいません。急いでるんです!」
 そう言って、逃げ出そうとする女子学生は川原だ。
「よ、川原?こんなところで何やってんだ?」
「あぁん?お前誰よ?この子のカレシ?」
 すると、取り巻きの男がオレを覗き込むようににらみつけてくる。
「うーん。どのパターンがいい?
 1.イエス、アイ、サー!
 2.いいや、違うよ。
 3.すいません。間違えました?
 さぁ、今日の御注文は・・・・・・DOUTH!?」
 と、オレはふざけて言う。しかも、素振りも入れて両手で指を差す。
「あっはっはっは、君、面白いねぇ〜。けど・・・・・・。」
 そう言って笑ってから、沈黙する。
「オレたちぃ。彼女と話してんの!邪魔すんじゃ・・・・・・。」
 そこでオレと話していた男の言葉が止まった。
「時間切れー。来年になったらまた答えてNE!ちぇけらー!」
 とか言いながら、オレは男の股間を蹴る。男は悶絶してその場で悶える。おお、こわ。オレもこんなことされたら悶絶だ。そして、ヒップホッパーなみの指構えをする。
「てめっ!」
 そう言って仲間意識か俺に向かって殴りかかってくる。
「ジョー!左だ!左を使うんだ!」
 と、オレと男達以外の声がする。ちなみに俺の名前はジョーではない。
「わかったぜ!おやっさん!!」
 そう聞いて俺も期待通りに右を使う。
「な、バカな!?」
 クリーンヒットしたのか、男はその場で倒れる。そして、声のほうを向こうとすると。
「よぅ。楽しそうな事してるじゃねぇか!?」
 駆けつけてきたのは高津だった。そして、背中合わせに不良を見る。相手は残り3人。別に高津に助けてもらうほどじゃないが・・・・・・。
「正則、今日面白いもん持ってきてんだ。」
「なんだよ?」
 と、オレは横目で見る。高津は一度帰っていたのか私服に着替えていた。そして、ラジカセを起動する。
『化免ライダー 本郷タケオは改造人間である。』
 お、これは化免ライダーの曲じゃないか。
『悪の組織、ショッパーを倒す為。本郷タケオは今日も戦う。』
 オレと高津の二人で化免ライダーの曲を聞きながら不良たちを撃退する。
「ピー!」
 オレはショッパーの戦闘員の真似をする。
「え!俺たち、敵なの!?」
「え、化免ライダーより、ショッパーの方がかっこいいじゃん!」
「うーん。それは考えどころだな。」
 そう言いながら俺は男達の攻撃を流す。
「こ、こいつら、ふざけてるくせに強ぇ!?」
「おっと、なめちゃいかんぜよ!俺はキュアホワイト!」
 と、高津はポーズを決める。
「え、えぇっと、キュアグレー!」
 俺は適当に答える。
「ブラックだろ!このバカ!!」
 俺はグーで後頭部を殴られる。ちょっと痛かった。
「えぇっと、キュアブラック!」
 そう言うと、高津は俺を見て頷く。そして、二人でポーズを決めて
「二人はプ〇キュア!マッスルハート!!」
「二人はプ〇キュア!マックスハート!!」
 静寂が支配した。無論、間違えたのは俺である。そして、俺と二人はボディビルダーよろしくの勢いでポーズを決める。
「なんで、そこでマッスルだよ!女の子が筋肉質だとキモイわ!!」
「ご、ごめん。」
 俺は謝る。高津みたいにアキバ系じゃないから俺はわからんのよ。
「なぁ、なんかしらけちまったぜ。行こうぜ。」
 そう言って男達は構えを解いて帰り出す。
「御嬢さん?大丈夫だったかい?」
 高津がそう言うと川原はバラを掌から出す。また、どっかからマジックを仕入れてきたな。
「あ、うん。大丈夫。ありがとね。」
「お詫びにバラの花を・・・・・・。」
 そう言って川原はバラを取ろうとするが。スッと引っ込めて
「何すんねん!おいらの商売道具やで!これがなくなったら、商売上がったりや!!」
 何処の関西人だと思いつつ
「おまえは、一回、そのつかみ所の無い性格を更正して来い!」
 俺はそう言ってしゃがんでいる高津を蹴っ飛ばす。
「ひ、酷いわ!私とは遊びだったのね!?」
 まるで乙女のようなポーズをとって涙をうるわせてるが、俺は歩き進んで高津を何度も踏み潰す。
「おまえはっ!そのネタはっ!何っ度もっ!やめろって!言っただろうが!!」
 死んだスライムのようにくたびれた高津を放置して
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。ありがとう。」
 そう言って、川原は言う。
「高津。家まで送っていってやれ。」
「おっけー!でも、商売道具が〜。」
 そう言って高津は封すら開けていない新品のトランプを見ながら言う。無論、演技だ。
「いや、おまえは・・・・・・ったく。ライブハウス先行ってろ。俺も後から行くからよ。」
「おっけー!でも_____。」
「同じネタは何度も通用するかっての!」
 そう言うとピョンと飛び上がり立ち上がる高津。
「え、ライブハウスって?」
「ああ、俺たちバンド組んでるの。って、言ってもこいつは助っ人。シンセ動かせるの今の所、こいつしかいないしね。んで、『サウンドブック』ってグループ知らない?俺、そこのギターやってんの。」
 そう言ってへらへらと笑い出す高津。こいつの変わり身には感服するよ。
「いや、その前に転校したばかりなのに知るわけ無いだろ?」
「あ、そうだった!これは御嬢さん、失礼致しました。お詫びに切腹を!」
「もういいから!」
 そう言って俺は突っ込む。こいつのボケは疲れるんだよ。
「へぇ〜、バンド組んでるんだ〜。」
「おう、なんだったら来てみる?こいつ、結構鍵盤使い上手なんだぜ。」
 そう言って首に手を回して指を差す高津。
「馬鹿言うなって、俺は母さんがピアノ弾いてたの真似しただけだぜ。」
「うーん。じゃあ、家も片付いているし行って見ようかな?」
「おう、来い来い!んじゃー、正則。俺先に言って、皆に知らせてくるわ。だから、送るのよろしく!」
 そう言ってすたこらさっさと走っていく高津。
「あの野郎。結構、喜んでるな。」
「え?」
「あいつ、照れ屋だからな。ま、いいや。家まで送っていくよ。」
 そう言って、俺は川原の案内で家まで向かう。
「あ、あの!」
「ん?どした?」
「あ、ありがとね。助けてくれて・・・・・・。」
 顔を隠して川原は言う。恥ずかしいらしい。
「気にすんな。ここら辺てさ。道外れると直ぐに獲物にされちまうんだ。治安悪いって訳じゃないけど、そういうのわかるんだろうね。狙いやすい奴が・・・・・・。」
「けど、ありがとう。」
 そう言って顔を上げる川原。う、これは中々の破壊力。
「あ、ああ、気にすんなって。」
 俺はそう言って他方を向く。
「そ、そういやさ。入る部活とか決めてるのか?」
 照れ隠しの為に話題を切り替える。
「うぅん。全然決めてないよ。これからどうするか考えてる。」
「前の学校では何やったんだ?」
「いや、何もやってないよ。吉川くんは?」
「俺?なんもやってないよ。」
 少し川原はわからなさそうな表情をする。
「えー、何かやってるでしょー?体格いいし、なんかやってると思うよー。」
「はっはっは、残念だったな。俺はホントにフリーさ。別にうちの学校は部活動の強制はないからね。だから、やりたい人がやって、やらない人はやらないのさ。」
「へー、ま、そんな訳で、私の家につきました−。」
 見るとかなりの大豪邸。最近、ここら辺ででっかい土地を買い取った人間がいるって渚さんが言ってたがこの事だったのか。
「上がってく?」
「いや、いいよ。この後、ライブの練習見に行くんだろ?だから、一度帰るから、行くときに寄って行くよ。」
「え、なら、大丈夫よ。」
 そう言って呼鈴を鳴らす。
「はい、こちら、川原邸です。」
「あ、私よ。裕香。」
「御嬢様?どうなさいました?」
 インターホンからは男の声がした。
「ちょっと、友達を送っていきたいの。さっきね。不良集団から助けてくれたから御礼したかったんだけど、彼の友達のライブハウスに連れて行ってくれるって言うから・・・・・・。」
「なりません!御嬢様。そんなライブハウスなどというところに女一人では。」
「大丈夫だと思うぞ。うちのクラスの女子もいるし。」
「あなたは?」
「ああ、俺の名前は吉川 正則です。今日転校してきた川原さんの・・・・・・友達、でいいのかな?」
 俺は恐る恐る川原のほうに顔を向ける。
「構わないよ。」
 笑顔で了承する川原
「・・・・・・わかりました。」
 そう言うとインターホンの声が無くなる。川原は準備の為に豪邸に入っていく。いっしょにどうかと言われたが、なにかしらいたたまれないので門前で待つことにした。
「ほぅ、へぇ、はぁん?」
 門前にもたれかかっていると、バリバリ執事という雰囲気を纏わせた男が俺を見ている。結構若いな。
「へぇ、あなたが、不良集団から御嬢様を助けた不良の吉川 正則様?」
 すっげぇ、殴りたくなったが、抑えて大人しく首を縦に振る。
「へぇ、ほぉう?まぁ、いいでしょう。御嬢様が御学友を連れてくること自体珍しいのですから。」
「あ、いや、勘違いしないでください。また、襲われると面倒だから送っただけです。それで、待っててくれと言われたから待っているだけの話です。あ、そうだ。川原さんに、できればズボンで来た方がいい。スカートだと危険だからな。」
「危険ってどういうことですか!?なんですか!?セクハラですか!バイオレンスなことでもするんですか?」
 執事は興奮して俺に詰問する。
「いや、帰りがバイクですからスカートだとホイールに絡まると大変でしょう?」
「む、確かに・・・・・・ですが、大丈夫です。帰りは私が迎えに行きますから!!」
「自転車で?」
 すると透き通った声が俺と執事さんの耳に入った。
「御嬢様!」
「言った後に気がついたけど、あなた確か免停喰らってたわよね。」
「ぐ!で、ですが、あのときは、御館様が名古屋でブイブイ言わせた。『名古屋の閃光』と言われた私を見たいと‥‥‥。」
 いやいや、免停喰らった執事ってどうよ?とか思いながらも俺と川原は家に向かう。
「へぇ、って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
 まぁ、初めて俺の家に来る奴はびっくりするよなぁ。
「こ、高層マンション!?」
 と、思う人は多いが
「こっちね。」
 俺はその高層マンションの横道に逸れていく。すると、古いが風格のある家屋が俺たちを出迎える。
「ただいまー。」
「あ、おかえり。正則。」
 そう言うとデニムパンツにランニングシャツ一枚の姉ちゃんが現れた。
「あれ?仕事は?」
「ああ、めんどくせーから帰ってきた。」
 そう言ってアイスキャンディーを喰う姉ちゃん。
「この不良教師。仕事しろよ。」
「おまえに言われたかないね。むしろ、後ろに連れてる転校生を連れて来るとはおまえも手が早いね。」
「誤解すんなっつーの。ライブハウス連れて行くだけだ。」
「ふーん。じゃあ、ほらよ。バイクのキー。ちゃんと今日点検から帰ってきてる。」
 そう言って姉ちゃんは俺にバイクのキーを放り投げる。
「おう。」
 俺はそれを受け取る。
「ちょっと待っててくれ。今、着替えてくるから」
「わかった。」
 そう言って、俺は自分の部屋に向かう。
「なんだったら、川原も入ってるか?まぁ、あいつ着替えるの早いけど・・・。」
「じゃ、じゃあ、失礼します。」
「なーに、周りは気にすんなって。親父も仕事だし、母さんはサークルだから」
 そんな姉ちゃんと川原さんのやり取りを聞きながら俺は玄関を後にする。
 部屋に戻ると、制服をハンガーにかけて、乱暴に脱ぎ捨ててあるG−パンとポロシャツを着る。そして、ジャンパーを着る。おっと、河原さんの分も持っていかないと・・・・・・。
「行くよー。」
「相変わらず、着替えるの早いね。あんたは・・・・・・。」
「別に普通だって、女と違って、男は直感で選ぶもんだ。」
「そんなもんかねぇ?」
「そんなもんだ。」
 そう言って、俺は玄関から、自分用のヘルメットと来客用のヘルメットを取り出す。
「ほれ、これでも被ってな。」
「あ、ありがとう。」
「ついでにこれな。風に当たると寒いからな。」
 そう言ってジャンパーを渡す。
「う、うん。」
 川原はジャンパーを羽織る。そして、バイクの後部に乗る。あ、胸が背中に当たってる。
「し、しっかり掴まってろ。」
 そう言って、俺はエンジンを少しふかす。
「・・・・・・あ、正則?」
「ん?」
「おみやげよろしく。」
「遠出するわけじゃねぇんだから、買ってくるわけねぇよ!」
 そう言って俺はバイクを走り出させた。
 20分もしないうちに駅前にある『サウンドヒル』というライブハウスに到着した。
「お、来たな?」
「あ、彼女が例の転校生!?さすが正っちやるねぇ〜?」
 と駆け寄って来たのは『大庭 由香里』と言ってサウンドブックのドラムを勤めている。というもののこのサウンドブックというバンドは結構、自分の中では異色だったりする。女がドラムをやることは多くないし、メインボーカルは毎回変わる。ギターの高津。ドラムの大庭。ベースの竹西 良という俺たちの中で一番年上の社会人。今日はいないから俺が代わりにやるがな。で、海外留学に行ったシンセサイザーの麓香織がサウンドブックの本来のメンバーだ。というか活動が厳しい為に脱退してしまった。そして、この中の誰かがボーカルを勤める。留学から帰ってきたら、もし本人にやる気があるのなら再編入の予定と大庭は言っていた。
「別に口説いてなどいない。」
 俺は即答で返答する。
「ま、今日もよろしくね。」
 そう言って、俺と高津と大庭は拳をこつんと合わせる。
「竹西さんは?」
「仕事終わったら来るってさ。」
「竹西さん?」
 川原がふと言葉を上げる。まぁ、自己紹介もしていないしな。
「そそ、ベースをやってる人なんだけど、社会人なんだ。シンセは正っちしかできないからね。正っちはオールラウンダーだからね。ベースもできるしドラムもできる。コピーライターって言うのかな?」
「ちょっと、違う気もするが・・・・・・。」
 俺は弱々しく突っ込むが
「って、自己紹介してなかった!」
 俺の話を聞かずに、先に進める大庭
「私は大庭 由香里!2−Cよ。よろしくね。」
 と、三本指を立ててウインクする大庭。こいつ、今日のHRと授業中、ずっと寝てたな。
「あ、私は川原 裕香です。今日2−Cに転校してきました。」
「固いっこなしなし〜。別にタメ語でいいよ。私だってタメ語なんだからさ〜。」
 この大庭の包容力には恐れ入る。大抵の奴はこれで陥落する。俺もその口だ。
「じゃあ、由香里って呼ぶね。」
「じゃあ、私も裕香って呼ぶわ。」
 そう言うと二人は同時に笑い出す。
「ふっ、これでサウンドブックにも華が咲く。」
「じゃあ、おまえと俺がいなくなったら、男の華は裂くな?」
「いや、発音変えて言うなよ!怖いじゃねぇか!」
「はっはっは。」
 そう笑って俺はステージのシンセの前に立つ。
「じゃ、記念として、俺とお前で一曲披露だな。」
「おうよ!任せておけ!正則!」
 そう言って俺と高津は手をパンと交わし、俺はシンセの前に立ち、高津はギターを持ってマイクを持つ。そして、二人に指を差しながら口を開く。
「おっけーい!じゃ、今日の一番はギターのTとピンチヒッターで有名な吉川 M則の____げっふぅ!!」
 俺は思わず、バイクのキーを投げつけていた。
「そんな不穏当な事いうんじゃねぇ!この阿呆!!」
「おっと、間違っちまった!わーりぃな。迷える音楽狂共!シンセのセイが告げる。ファーストナンバー!『例え、別れても』いっくぜー!!」
 そう言って、俺が伴奏に入る。そして、ギターが勢いよく伴奏の中に入ってくる。そして、高津は声を高らかと響かせる。

 そう、僕らが知り合ったのは。

 何気ない、街角の中。

 君は、顔をうつ伏せていた。

 駆け抜ける声をあげて、

 自分は、君を訪ねた。

 あの日から、自分は変わった。

 退屈な日常を去り、明日を見る。

 君の背中を見つめ、君は僕の背を見つめ

 交し合った約束。

 今も、続く。

 別れてしまっても

 絆はいつも胸にある。

 あの交わした約束のミサンガ

 悲しくなったら思い出してくれ

 僕も思い出すから

 僕は忘れない


 と、歌い終わる高津に二人は驚きの表情で
「おー、正っちにショーもそんな隠し球作っていたとわー!私も竹西さんと頑張るよー!」
 そう言って大庭は驚きと喜びを隠せないようだ。
「高津!」
「正則!」
 俺は再び手をパンと鳴らして交わす。そして、俺たちはステージを降りる。そして、高津が川原に駆け寄って
「どうだった?」
「・・・・・・。」
 ぼうっとしている川原
「川原?大丈夫か?」
「あ、うん。ご、ごめん。なんかとってもかっこよかったから・・・・・・。」
「マジで!ありがとう!これ、殆ど、俺が作詞作曲したんだよね。そこに正則が手伝ってくれてさ!マジで嬉しい!ありがとう!!」
 高津は本気で喜んでいる。これは高津の従妹が友達と喧嘩したらしく。それを仲直りさせる為に作った曲だ。それを聞いた俺は何かできないかと思って手伝った。
「あ、いや、ホントにかっこよかったよ。私も何かできればなぁ。」
「え、なんかできる楽器あるの?」
「いや、無いけど・・・・・・。」
 ちょっと、気まずそうに川原は顔を伏せる。仕方ない助け舟を出してやるか。
「やってみっか?」
「え?」「ん?」「はい?」
 三種三様の反応が返ってきた。
「だから、やってみるか?なんか楽器。できればシンセでもやってみないか?」
「って、いいのか?正則!?お前の立ち所無くなるぞ!?」
「なーに、これでも俺は奥の手を隠しているんだよ。」
「なに、正っち!隠し球をショーのほかに持ってるの!?」
 二人に攻め立てられる。
「ああ、隠し球だ。つい最近、吹奏楽部の奴らに言われてな。興味本位だが、やれないことは無い。」
「おぉ〜!!マジかよ!マジ、サウンドブックがホントにサウンドブックらしくなってきた!!」
 大喜びする大庭と高津。嬉しすぎて壊れたのかヨロレイヒーとか言っている。
「んで、どうする?」
「シンセサイザー・・・・・・だよね?」
 ちょっと険しそうな顔で俺を見る
「ああ、なんなら、ボーカルでもやるか?まぁ、川原は顔がいいからな。ボーカルでも十分映えるぞ。」
 一応、逃げ道を作っておく。ボーカルなら一応だがいつでも抜けられるがな。
「うーん。なら、私はシンセサイザーをやってみる。」
 そう言ってシンセサイザーをやることに決めた。
「うーん。いいんだけどさ。」
 ちょっと、難しそうな顔をする大庭
「どうした?」
「いやね。家の事情とか大丈夫なのかな?私達は親が放任主義者だからどうにでもなるけど・・・・・・。」
「大丈夫です!説得します!!」
 熱意のある言葉に視線に
「うーん!合格!いやー、正っち、いいの拾ってきたわー!お礼に私の初夜を_____。」
「うっせぇ、黙って楽器の練習してろ。」
 俺は言葉を遮っていう。こう見えて大庭は下世話な話が大好きだ。俺を毎回、それでからかおうとするが、長年とは言えないがそれなりの付き合いだ。大体わかる。
「ぶー。ちょっとは構ってもいいじゃない!」
「はっはっは、ソンナノシルカー」
 と、棒読みで返す。
 そして、俺は川原の練習を始める。
「えっと、こっからドな。ってか、どうすっかな。」
「どうしたの?」
「いや、俺の家に本があるんだけどよ。それでも貸そうかなって。俺って教えるの下手だからさ。」
 そう、口下手ではないんだが、俺はいかんせん、人に教えるのは苦手なのだ。どちらかというとテキストを作って、それをわかりやすく解説したほうが楽だ。
「いや、大丈夫だよ。」
「う、うん。わかった。ちょっと、下手だが我慢してくれ。」
 そう言って俺は指導を始める。
「いよっす!やってるかね〜。」
 と、練習をしているうちに竹西さんが来た。
「いよっ!竹ちゃん!新メンバーが増えましたぜ!」
 実質、サウンドブックの実権を握っているのは大庭だ。
「それは、今シンセサイザーをしている子かい?」
「そうよ!この子は気概があるわ。磨けば、ダイナマイトになるかも!」
「「「それを言うならダイヤモンド!」」」
 俺、高津、竹西さんで突っ込む
「そうともいう。」
「へぇ〜。ゆかりんが言うんだから、間違いないだろうね〜。どう?よっし〜?」
 よっしー。それが竹西さんからのあだ名だ。しょっちゅう変わるあだ名なのでちょっとわかりにくいが・・・・・・。
「ああ、中々、覚えがいい。基礎さえ学べば直ぐに実践に出せる。」
「でも、シンセの座が危ういね〜。よっし〜?」
 面白そうに言うが、俺も対策はある。
「それがね。それがね。正っちってば、隠し球持ってるのよ!」
「隠し球!?また、新しい楽器をやるの!?」
「そうらしいぜ。こいつ、何でも手をつけやがる。」
 そう言って、恨めしそうな目線が突き刺さる。
「おまえらもやってみればいいじゃねぇか?」
「「「そんな暇はない!」」」
 三人に刺された。
「ま、いいけどね。サウンドブック。仮メンバーである最強の隠し球の正っちに掛かれば、サウンドブックは最高よ!!」

 そんな日々がしばらく続いた。勿論、親の説得は難もなく。むしろ、親も喜んでいた。何やら『自分のやりたいことがあるというのは始めて聞いた』とか。んで、ライブハウスが空いていない日はしょっちゅう、川原の家に集まって会議やら雑談やらをしていた。そして、ライブハウスのそんなある日。
「♪〜♪♪♪〜〜〜♪〜♪♪〜〜♪〜」
 川原が俺の指摘無しで弾いていく。そして、バックサウンドに高津のギターに竹西さんのベースが着く。そして、演奏が終わり
「どうですか!?」
 演奏が終わると川原は俺に尋ねる。
「ま、ちょっと、粗はあるが、ミスってもそのまま流せる。ミスに目を流すことも身についた。次からは実践だな?」
「って、ことは?」
 大庭が俺に尋ねる。
「ああ、合格だ。」
「や、」
「や?」
「やったー!やったよー!ゆかりん!!次からはデスマッチだ。」
 不穏当なことを言う大庭。川原、大庭ボケが感染してきたか‥‥‥。
「「「間違いなく違う。」」」
 俺たち男三人は同時に突っ込む。てか、大庭
「んじゃ、楽器合わせ、やってみるか!」
「え、でも、正っちは?」
「まぁ、焦るなって。じゃあ、俺はちょっと楽器とって来るから、音を合わせててくれ。」
 そう言って、4人は少し感慨げに楽器の演奏を始める。
 そして、俺はライブハウスの管理人に預けていたものを受け取る。そして、玄関でセッティングをして、それをもってライブステージに入る。
「「「「!?」」」」」
 皆は驚きながらも演奏を続ける。そして、その音の方向に顔を向ける。
「♪♪〜♪〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪〜〜」
 俺が持ってきたのはサックスだ。金管楽器だから歌うことはできない。しかし、効果はあった。みんなの演奏に力が入る。そして、演奏が終わると。
「まっじで〜!!今度はサックス〜!?ホントに驚きだよ!さっすが、両刀使____あいた!!」
「不穏当なことを言うな!これでも高かったんだぞ。短期バイトして一生懸命溜めて買ったんだからな!」
 そう言うと、皆は喜んでワイワイ騒ぎ出す。
「おっしゃー!これならライブ開けるぞ!!」
 ちなみに高校の校則に『ライブをしてはいけない』などの規定は無い。
 これが本当の戦いだった。そう、川原にとっては・・・・・・。

 そして、ライブ当日。
「大丈夫?ゆーか?」
「だ、大丈夫。」
 川原は緊張でやられていた。
「そういう時は誰かに緊張を移せばいいんだよ。」
 竹西さんがそういうと一同は視線を集中させる。
「移すってどうやって?」
「口移し」
 竹西さんは不敵な笑みを上げながらいう。
「ロクデモネェ事いうな!」
 俺は思わず突っ込むが、突っ込んだのは俺だけ・・・・・・。
「それ、いいかも!ねぇ、ショー。私のキンチョー。あなたにあげる。」
「って、俺!?」
 思わず高津がびっくりして一歩退く。
「ちょっと〜。どういうことよ〜?私の熱いベーゼを拒否るなんて〜。」
 そう言ってニコニコと笑ってるとクスリと笑う声。
「ありがとう。みんな、緊張なんかどうでもよくなった!」
「ああ、気にするな。皆緊張してるしさ、間違えたっていいんだよ。」
「グリーンダヨー!」
「お前はだまっとれ!」
 茶々入れる高津を蹴っ飛ばす。
「んでな。ついでに言うと、俺たちは上を目指す為に頑張ってるわけじゃない。俺たちは自己満足。川原だって自分の演奏が聞いてもらいたくてここまで来たんだろ?」
「うん。そうだね。自分らしく!だね!!」
『続いては、地元では根強いファンがいる。サウンドブック!』
 すると、ワーとかキャーとか言う観客達。
『そして、今回の注目は新しいメンバーと新しい武器を引っさげたセイが登場だ!!では、サウンドブック!!!』
「おっしゃ、皆行くよ!!」
「おっけー!」
「任しとけ!」
「わかった!」
「了解!!」
 そして、俺たちはステージに滑り込む。竹西さんはベースを、高津はギター、大庭はドラム、川原はシンセ、俺はサックスを持つ。
「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!まず、新メンバーを紹介するよ!!」
 リーダーである大庭が言うと、キャーと叫ぶ女の観客。
「新しくシンセサイザーを弾く。彼女はユーカ!」
 ヤッホゥ!結婚してくれ!ユーカちゃん!とか声援が聞こえる。それに答えて、川原もパフォーマンスとして軽くシンセを撫でる。ってか、初めてなのに最初から受けがいいとは結構当たりかな?
「そして、また新しい楽器を引っさげてやってきたのは毎度のことのオールラウンダー!セイ!!」
 そう言うと俺はサックスを軽く吹く。ちなみに『セイ』とは俺の名前の『正則』の部分の『正』を音読みに変えただけである。
 キャー!セイ様ー!!!とか聞こえる。俺も人気上がったよな。
「んじゃ、みんな、今回は初めから新曲!『自分らしく』!!」



 ライブコンサートも終わり、俺たちは打ち上げにきていた。
「みんな!」
「「「「「「お疲れー!!!」」」」」」
 と、ジョッキやらコップやらで乾杯する。
「いやー、改めて、あの場所でやるとすごいねー。」
「そうだな。コンサートホールに一杯の人たち、あの人たちも俺たちの演奏に満足しているんだよなぁ。」
 と、自分に酔い始める高津。もちろん、今日は無礼講、高津はビールを飲んでいる。
「初めてですけど、あんなに凄いとは思いませんでした。」
「でしょ〜?私達も最初はあなたみたいだったんだけど、正っちだけは違ってね。正っちのおかげでここまで来れたもんだよ。」
「そうだね。マッサーのおかげで、皆頑張ってきたしね。」
 そう言って、皆は敬愛の視線で俺を見る。少し恥ずかしい。
「へぇ、皆さんの出会いってどうだったんですか?」
「ああ、最初はね。あたしと竹やんで路上ライブしてたの。あ、あと、当時はドラムじゃなくてギターをしてたの。あ、話が逸れちゃった。そんでね。いつも路上ライブやってるところでね。ショーが路上ライブ初めて、最初は喧嘩三昧。」
「ああ、やったね〜。ここは俺が取ったとかで。」
「うんうん。どっちも強情でね。そこに入ってきたのが正っちよ。」
 そう言って大庭は俺に指を差す。
「え、吉川くん?」
「うん。口喧嘩してる私達にね。『そんなに言い合うぐらいだったら一回合同でやってみればいいだろ。お前達ってこの場所が好きなんだろ?だったら、意気も統合するだろ?』って、言ったのよ。」
 その日は俺も覚えている。確か、野球部の援軍の帰りだったはずだ。少し知り合いの家に寄って帰っている途中に喧嘩している二人の姿があって、周囲も閑散としていたから、周りに被害が回らないうちに、どうにかしようかと思った。そのときはまだ、高津とは知り合いじゃなかったが、気が付くと同じクラスだったのは驚きだった。
「最初は散々だったけど、今はもう、夜のお供!」
 一瞬の沈黙。ここまできて下世話な話とは・・・・・・。
「え、付き合ってるんですか!?」
 川原はビックリした表情で高津と大庭を見る。
「うん。そうよ。かれこれ何年になるかしら?」
「うーんと中学ン時だから4年ぐらい経ってるのか?」
「そうだねー。」
「んで、竹っちは遠距離恋愛中。正っちが手伝ってくれる前にね。竹っちの紹介でシンセできる子がいるって言うから連れてきてもらって、私が審査して合格したら、次の日に付き合ってるから少しでも一緒にいたいっていったの。もー、私より先に抜駆けしてたなんて赦せないわ〜。」
 と、笑い半分に言う。すると、竹西さんが立ち上がって
「香織は俺のもんだー!!!!」
 叫び出す。五月蝿いので手套で首の辺りを叩く。
「かおり〜。」
 と、言いながら倒れこむ。どうやら、失神と同時に寝たようだ。
「香織さんから言い付かってるからな。『もし、私について変な事言ってたら締めちゃっていいから』って」
「え、正っち、ふもふものアドレス知ってるの?」
 ちなみに『ふもふも』とは麓香織。香織さんのことを言っている。
「知ってる。なぜかな。」
「なぜかって、聞いたんでしょ?」
「いーや、あの人、俺のパソコンのアド教えたことないのに送ってきたんだよ。しかも、この監視の理由は、『ゆかりんとしょーちゃんだと二人でいちゃいちゃしてそうだから、一番頼りになる正則くんにお願いするわ』って_____?」
 そう言っている間に大庭に両肩を掴まれ
「あとで、ふもふものアドを教えなさい!」
「‥‥‥わかったよ。」
 そう言って、大庭は力尽きる。
「さて、結構飲んだしな。竹西さんはタクシーに任せよう。」
「んだな。由香里は俺が送っていく。」
「了解。じゃあ、俺は川原さんを送っていく。」
「わかった。送り狼になるなよ〜。」
「なるかっての!」
 そう言って、俺たちは解散した。
「ねぇ、吉川くん?」
「どした?」
「なんで、吉川くんの前の人・・・・えっと、麓香織さんだね。その人は苗字で呼ぶんだね?」
「香織さんが、下の名前で呼べって言うからさ。仕方なくだよ。」
 何やら深刻そうな顔をする川原さん。
「そっか・・・・・・。」
「どうかした?」
 すると、立ち止まる川原さん。
「川原さん?」
 俺は近寄って肩を触れようとすると、手を取られて
「っ!?!?!?!?!?」
 状況が理解できなかった。手をとられて、俺より背がちょっと低い彼女の顔が目の前にある。その状態がしばらく続く。
「っ!ご、ごめんね!!」
「・・・・・・。」
 状況が未だに理解できなかった。何が起こったのか?彼女の顔がなぜ俺の目の前にあって唇の感覚がちょっと、理解できない。
「ご、ごめんね。」
「あ、いや、大丈夫だよ?」
 自分でも疑問形になるぐらい混乱していた。
「こ、こんな不意打ちで悪いんだけどさ?」
「な、なんだい?」
「つ、つ・・・・・・。」
 つ?なんだろう?
「付き合ってください!!」
「・・・・・・・・・・・・。」
 精神が断線した。意識が混濁する。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。我に返れ俺。
「う・・・・・・。」
「う?」
「うぇぇぇぇぇ!!?!?!?!?!?!?」
 しかし、頭で思ってたほど落ち着いていたわけではなく。思わず、訳のわからない言葉を張り上げた。
「え、でも、あの、えーっと?」
「駄目・・・・・・ですか?」
「あ、え、いや、俺としては一向に構わないんだけど・・・・・・。」
「うん?」
「俺でいいの?」
 そう質問する。すると、彼女はうつむいて
「はい・・・・・・。」
「あ、えっと、じゃあ、うーん。こういう時ってなんて言えばいいんだか?」
「どうしたの?」
「あ、あー!これだ!よろしくお願いします!」
 深々とお辞儀をする。
「あ、私も、よろしくお願いします!」
 そして、二人ともお辞儀をする。
「「ぷ、あははははは・・・・・・。」」
 思わず二人で笑い出す。何がおかしいのかはきっとわからない。だけども笑える。
「これからもよろしくな。裕香?」
「うん。よろしくね。正則?」

 後日談 能ある鷹すら爪を隠せない。

 そんな意志が通じ合った中。奴らという奴は。俺と裕香と大庭はファーストフード店にきていた。ライブハウスが急に使えなくなった為に適当にこの場所にきていた・・・・・・というか、こいつに付き合わないでとっとと帰ればよかった。
「ねぇ、二人とも?」
「ん?どした?」「何?ゆかりん?」
「ヤった?」
「グッ!!」「フゲッ」
 たまたま喰っていたハンバーガーが喉に詰まる。対して、裕香は飲み物で空気ごと飲んでしまったらしい。けほけほと咳き込んでいる。
 そして、大庭が出しているの人差し指と中指の間から親指が出ている。
「ってか、何で知ってるんだよ!?プライベートのときにしか呼んでないのに!?」
「へっへー。ゆーかが告った時に対する周囲の注意が向いてなかったみたいね!!」
 あの時か!?
「もう、私もドキドキしたわ。ぶっちゅーって!あの時間だけでも5分もあったのよ。よく続いたわね!」
 げらげらと笑う大庭。この親父め!
「この事、誰にも言いふらしてないだろうな?」
「もち!言いふらしてるわ!!今ごろ、ショーが言いふらしてるんじゃない?」
「じょ、冗談じゃねぇ!おまえ、そしたら、学校に何人の敵を作ると持ってるのよ!タダでさえ、裕香を狙ってる奴がいるって言うのに!!」
「ふっふっふー、容易いものよね。新聞部の部長に言ったらあっという間に広がるんだからねー。」
 渚さーん!あんた鬼だよ!!鬼!!ちなみに余談だが、この次の日に、校内新聞の一面に『スキャンダル!2−Cの美貌の転校生「川原 裕香」が、同じクラスである「吉川 正則」が街中でデート!』とか言う校内新聞を張られたのは別の話。
「正則さん!」
 うなだれている俺に対して裕香は
「こうなったら逆に開き直ってやりましょう!」
「お、思い切った行動に出るわね。」
 裕香の言葉に俺は言葉を失う。
「正則さんは誰にも渡しませんし、正則さんは私を忘れられない体にしてあげます!!」
「ちょっ!裕香!?」
「文句ありますか!正則さん!?」
 その鬼気迫った裕香の行動、いや、『熱意の眼差し』と書いて『殺気』と読む勢いに、俺も思わず。
「ありません。」
「こりゃ、間違いなく尻にしかれるわね。んじゃ、サウンドブックもこの勢いで頑張らないとね。」

 数年後、俺たちサウンドブックはなぜかメジャーデビューまで発展していた。そして、でっかい会場を貸しきった。そこには大勢のファンに囲まれる俺たち。この数年という時間で『麓香織』言わば、竹西さんの奥さん。というのも俺たちの知らない間に結婚していたという裏事実に俺たち4人は度肝を抜かれていた。そして、今は留学先から帰国しサウンドブックのマネージャという大役を務めている。一応、サポートで俺がやっているがね。
 そして、大庭、いや、高津 由香里となった大庭 由香里は産休のためこの会場にはいない。
「みんなー!今日もありがとー!!」
 それで俺は由香里の代わりにマイクを持つ。そして、竹西さんや高津たちは変わらない楽器を持つ。
「じゃ、俺たちサウンドブックの新曲『能ある鷹すら爪を隠せない』!行くぜ!!」
 俺が先導を切って言葉を放つ。今日のメインボーカルは俺だ。あの時に告白された出来事にその後の事実。それをひっくるめた曲を俺は今日、歌という記憶に残す。


戻る