『いいの?生きているのに?』
「まぁ、そうだな。余計な手出しだな。」
『なら、自分は不干渉を気取るんでしょ?』
「誰がそのようなことを言った?」
『え?』
「俺はそんなことはどうでもいい。」
『どういうこと?』
「復讐もいいだろう。だが、一番の理由は死んだ記録は確かにあるんだよ。」
『‥‥‥。』



 04th Mission
  「仮面」を持つ学生達



 フィルシアは光山に罵声をあげた後、授業が始まったのでそのまま問題は先送りになった。そして、放課後、光山は再び、フィルシアに言われて屋上に来ていた。
「で?俺はあの情報は真実を書いたぞ。」
「確かに、そうかも知れないけど、納得できないわ。」
「ああ、そうだな。俺も納得していない。」
 光山がさらりと言いのけるとフィルシアは狐につままれたような表情をする。
「どういうこと?」
「おまえ、ちゃんと読んでいないな。ノートには害意の考えられない一般市民からの一撃で死んでいるんだ。いや、言い方を変えよう。戦魔神団による抗争に巻き込まれて死んだ。一応、書いてあることを言っている。あとはここからは俺の考えだ。死んだとは言われているが遺体は見つかっていない。考えるに奴はまだ生きている。実は残滓の法術で探し当ててみたんだが、どうやら、消去されている。」
「残滓の法術?」
 聞き覚えのないに疑問をフィルシアは疑問を覚える。
「ああ、8小節詠唱は教えられていないんだな。これは法術の部類でな。ある一定期間の間はその魔力による行動が残っているんだ。時空軸やら、いろいろあるが省かせてもらう。んで、過去の記録を辿ったが一切なかったんだ。」
「と言うことは、簡単に考えるけど、その残滓の法術で過去の記録を調べたけど、消去されていた。そして、草壁 唐真に関する記録がなかった?」
 光山は無言で縦に首を振る。
「さて、おまえの問答は終わったな。んで、グレンは何のようだ?」
 屋上の扉から現れたのは血相を抱えたグレンだった。
「おまえたち、何をしていた?」
「なに、情報交換だ。」
「貴様らは、草壁唐真を知っているのか!?」
「ほう、意外な情報源がいたのか?」
 光山はそう言って無音の威圧でグレンに歩み寄る。そして、襟首をつかみグレンを持ち上げる。
「草壁唐真に関する情報をすべて教えろ。貴様から、その言葉が出た瞬間から、言い逃れはできない。しようものなら、この世界に生きた証すら残せない状態にしてやるよ。」
 光山はそれと同時に左の腰に下げている剣を抜く。
「少しの‥‥‥情報しか‥‥‥ないぞ‥‥‥。」
「構わん。別に俺たちの持っている情報を話してもらっても構わん。」
 そう言って光山は手を離す。すると、グレンは尻餅をつく。
「きょ、去年の話なんだが、ああ、知ってるかも知れないけど、草壁唐真が死んだって話を聞いてるよな?」
「ああ、聞いている。」
「その日の1ヶ月後か。ちらりとだが、黒いローブ越しに見えたんだ。」
 光山は少し、眉間にしわを寄せる。それに気づいてびくりとグレンは震える。
「他には?」
「あ、ああ、おかしいと思って追いかけてみたんだが、気がついたら自宅に戻っていた。」
「‥‥‥ふむ。おもしろいことを聞いたが、まぁ、放っておこう。」
 光山はそう言って剣を治める。
「さて、その場所とかいろいろ聞きたいことがあるが、ここまでだ。俺は不干渉。ついでに言うなら、学校にまで手が伸びているとは思っていなかったな。」
 光山は再び、剣を引き抜く。そして、光山の雰囲気につられて、フィルシアとグレンも武器を構える。すると、周囲には黒い影の集団がフェンスの外で宙に浮いている
「ひ、光山!どういう事だ!?」
「戦魔神団だ。おまえは無関係だろう。せめて、最低限は自分の身を守ってくれ。今回は数が多い。」
 光山はそう言って宙に飛び上がる。すると、それを追って黒い影は光山に襲いかかる。光山はそれに対応して縦横無尽に剣を振り回す。しかし、ただ、むやみやたらに剣を振り回しているわけではなく。襲いかかる影に向かってちょうど良く払っている。
「あれが、翔空蓮閃流‥‥‥。」
「グレン君?わかる?あれが、彼よ。前の旅学生とは比べ物にならない。」
「なぜ?あいつはあそこまで?」
「やらなければいけないことがあるからよ。あなたみたいに、優劣だけで決めつける人じゃないのよ。」
「俺は、いつも親父に他と優劣をつけられていた。だから、いつも他人と競い合い頂点に立つことで満足していたけど‥‥‥。」
「そうね。彼は違うわ。」
 二人は光山を見る。そして、襲いかかってくる敵を迎撃し始める。
「‥‥‥よし、フィルシア!」
「なに?」
「前衛はこの俺に任せろ!光山みたいにうまく動けないが、前衛を務める!!」
「わかったわ。」
 そう言ってグレンは剣を構えて光山まで早くはないが軽快に動いてフィルシアに近づく敵を迎撃していく。
「へぇ、やるじゃない?なら、私も!!」
 フィルシアの足下に魔法陣が展開される。そして、魔法陣の端から銀に光る刃が現れる。
「鋼、紡ぐ、深淵より出でる闇の刃。」
 すると、刃は影をことごとく射抜いていく。
「悪い!2人行った!!」
 グレンはそう呼びかける。
「ちょっ!対応できないわよ!!」
 そう言って影は懐から剣を持ちフィルシアに襲いかかる。
「くっ」
 フィルシアは死を覚悟し、グレンはフィルシアの死を覚悟した。
「!!」
 だが、その剣は折られて影の心臓は貫かれていた。
「もう、上空は片づいた。あとは、貴様らだけだ。」
 二人が上空を見ると影の姿はない。そして、光山の剣には血が付着している。
「どうやら、人間も混ざっていたようだな。もし、人を殺す覚悟がないなら俺が討つ。」
 そう言うと二人は引き下がる。何らかの魔法物質だと思っていた中に人間がいる。これでも彼らは未成年の正常な常識を持った人間達だ。光山と違ってあらゆる悪事に手を出してまで生きていた人間とは違う。そう、彼らには覚悟がなかった。
「さがっていろ。おまえ達の意志はわかった。血生臭い仕事は俺の専門分野だ。」
 光山は黒い影に駆ける。そして、迷い無く相手を切り伏せる光山に感情はない。
「!?」
 その黒い影の中に光山の剣を受け止める影がいた。
「‥‥‥ほぅ。」
 光山はふと笑って後方に下がる。
「おまえの相手をする必要はないようだな。まぁ、ここは退くがいい。俺はおまえと闘うにはお門違いだ。」
「‥‥‥。」
 そう言って光山の剣を受け止めていた影は無言で去っていく。
「まぁ、この程度か。」
 光山はそう言って指を鳴らす。すると、影は霧散する。
「まぁ、人間がいたのは一人だけだがな。」
「って!それなら、私たちも対応しても___________!!」
 光山はフィルシアの言葉を遮って
「んじゃ、言おうか?俺がそのように一人だけと言っていなかったらどうなる?」
「っ‥‥‥。」
 その言葉に沈黙するフィルシア
「フィルシア、やめようぜ。こいつと俺たちじゃ違う。こいつは汚れている。俺たちみたいに暖かい環境で育った人間とは違う。」
 グレンはそう言うがフィルシアは引き下がらなかった。
「な、なんでよ!?でも、私は手伝いたい!」
「‥‥‥迷惑になってしまうんだよ。おまえは光山に手伝えることはあるかも知れない。だが、領域を超えると、今のように学校に攻め入ってくることもある。まして、今はよかったが人間を殺した場合は恨みだって買う。おまえはその人を殺して恨みを買う覚悟はあるのか?」
「‥‥‥。」
 フィルシアは黙ってしまう。覚悟が踏み出せないでいるのだ。
「覚悟はわかった。」
「どういう事?」
「俺がつかんだ情報はこれだけだ。これ以上、いや、金輪際、俺に関わるな。緩矢に関わるのは別に構わない。だが、こちら側の首には突っ込むな。」
 そう言って光山は背を向ける。
「あなたはっ!!」
 フィルシアは再び魔法陣を形成して、鋼の刃を召還する。そして、鋼の刃を光山に向ける。
「あなたはぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 フィルシアの咆吼とともに鋼の刃が光山の心臓に向かっていき、ざくりと光山を貫いた。そして、力なくその場に膝をつき倒れる。
「‥‥‥え?」
 思わぬ事態だった。あれほど、手練れの光山があっさりと心臓を貫いたのだ。光山ほどの手腕があれば、回避、打ち消すなどできるはずだ。
「嘘‥‥‥だろ?」
 グレンも驚いていた。あれほど、自分を凌駕していた人間がフィルシアの手により倒れたのだ。
「嘘‥‥‥でしょ?」
 フィルシアも驚いていた。あり得ない。自分より手腕が上にいる人間が強いモノが倒れた。しかし、あり得ないことが起こる。
「‥‥‥死人に口は無いけどな。本当に俺が死んだと思っているのか?」
「「え?」」
 起きあがる光山。
「これが人を殺す重みだ。今、俺を殺したとき、どう思った?フィルシア?」
「そ、それは‥‥‥。」
 一言では言えなかった。身に襲いかかってきたのは後悔、罪悪感、様々な念が自分に覆い被さった。
「よくわかっただろう?これが、殺人だ。」
「‥‥‥風見先生はどうなの?」
「そうか。おまえは風見のことは知らないからな。あいつは、俺と違った意志を持っている。人を殺さずとも、確たる意志を持って行動している。おまえらとは違う。」
 そう言って光山は胸から突き出た刃を掴み。
「「!?」」
 引き抜いた。そして、その胸からは血が噴出する。
「全く。代価の聞かない事をしたんだ。本来なら責任とか、いろいろおまけ付きで来るがな。これで、おまえとは手を切らせてもらう。」
 光山の言葉が耳に残る。そして、光山の姿は屋上のドアに消えていった。
「フィルシア。きっと、あんたの負けだ。勝つんだったら、もっと覚悟が必要なんだ。」
「あなた、普段は悪びれているけど、何者?」
「グレン・カイムナートさ。知っての通り、徒党を組んで不良を気取っている人間だ。けど、あんなもん見せつけられたら本性だすしかないじゃないか?」
 意外なグレンの本性。それは驚くべき結果だった。
「ま、こんなのになるのは初等部以来だ。不思議だな。あいつは‥‥‥。」
 そう言ってグレンは少し楽しそうに笑ってその場を立ち去った。

 光山が町はずれの小屋に戻ると
「鍵を開けっ放しなんて、不用心ね。」
「何のようだ?」
 そこにいたのは緩矢だった。
「あなた、玲奈ちゃんを突き放してどういうつもり?」
「‥‥‥死地に追いやるつもりはない。これは俺が関わった問題だ。」
 光山はそう言って剣を壁に立てかける。
「どういう事?」
「‥‥‥そうだな。これを聞いて引き下がってくれるか?」
 光山は壁を背に地面に座る。
「聞いてからね。」
「そうだな。光山家の事から話そうか。」
 光山はふと窓の外を見る。
「光山家?そんな大層な家柄なの?」
「裏ではな。結構、古い家系だ。おまえはなぜ、いにしえの知識による記録がないと思ったことはないか?」
「‥‥‥そうね。天地闘魔戦争のこと?」
 光山は感心した表情で
「ピンポイントで良いところを突いたな。天地闘魔戦争の記録という記録はなんだ?」
「天使、魔族、人間の三つ巴で闘った戦争よね?魔法技術と生存のための領地の争いよね?」
「その通りだ。では、勝敗は?」
「え?人間じゃないの?人間達は勝利を得たものの、戦争による圧倒的な人口の減少により、領地拡大は行わなかったんじゃないの?」
「確かに、それは表の正史だな。本来は、人間、魔族、天使が共同の製作により侵攻をできなくしたんだよ。」
 明らかに不可解。人間達は勝利したのに侵攻を不可能にした理由がつかめない。
「どういう事?」
「なら、天地闘魔戦争が永遠に続けばどうなる?」
「それは‥‥‥戦う人間がいなくなる?」
「半分正解。半分不正解だ。実際には戦争は打ち切られたんだ。」
「え?どういう事?人間が勝利したんじゃないの?」
 ふつうならそう考える。現にこの世に存在しているのは人間なのだ。
「なら、天使、魔族、人間の他にもう一つの勢力があったら?」
「わからないわ。その相手の戦力もわからないし‥‥‥。」
「そうだな。わからないな。なら、その勢力が三つの勢力の離反者なら?」
「‥‥‥言っている意味がわからないわ。」
「確かにな。だが、そいつらはこの戦争に無駄と気がついて外界、人間から見れば天界、魔界の両方の行き来を閉じたなら?」
「それは戦争の幕を閉じるために動いた中立軍みたいなもの?」
「そうだ。だが、それはあくまで一時の安泰に過ぎない。」
「どういう事?」
「ここからが本懐だ。失礼するぞ。」
 光山は立ち上がって地面に魔法陣を展開する。
「防音魔法陣展開完了。これより、二重防音結界を起動する。」
 そして、膝を折り魔法陣にふれる。
「我、現世によりこの場に発せられる動なる力を遮断する。」
 すると、魔法陣は仄暗い桃色に光り、外界との音を遮断する。
「外系統同時操作魔法術を使うのね?」
 外系統同時操作魔法術とは、魔法術は音声魔術、紋章魔術、思念魔術と三つに分類される。これを音声系統、紋章系統、思念系統と呼ぶ。その魔法術を同時に行うことは難しい。だが、これを同時に行うことは不可能ではない。故にこれを行使するものは外系統同時操作魔法術と呼ばれる。
「ここからは決して漏らしては行けない事項なのでな。では、事を話そう。」
 そう言って光山は地面に座る。
「では、人間達はどうやって闘っていたと思う?」
「それは、天界、魔界の人間達を迎撃していた?」
「確かに、それもあるな。だが、侵攻は?」
「‥‥‥。」
 黙りする緩矢。
「それが、俺たちの家系だ。」
「ちょっと待った!どう考えても変でしょ?玲奈ちゃんは人間よね?けど、光山は‥‥‥。」
 緩矢は言い淀んでしまう。無理もない、人間である玲奈と人間ではない自称と称する光山には言い難いことだ。
「気にするな。何度も言われていたことだ。まぁ、確かに種族が違うのに家系というのはおかしいな。まぁ、俺みたいに拾われた人間を生業にしていたからな。俺の父さんは‥‥‥。」
「なぜ?孤児院なんか?」
「さぁな。そんなことを思う前に死んだからな。」
 光山はサラリと言うと緩矢は申し訳なさそうな顔をする。
「下手な同情はいらない。話を続ける。俺は生まれつき、知能が高くてな。本来、継承者は直系の兄がいたんだが、伏線として俺にも継承された。」
「へぇ、でもそれだけじゃ、判断材料は足りないわよ。」
「わかっている。話を続けよう。俺の家系はな。天界と魔界に通じる扉を操作する家系だ。」
「手っ取り早くそう言えばいいんじゃない?」
「確かにそうだが、そう言って信用したか?裏付けを取った上で話した方が信用はできるだろう?」
 光山はそう言って水筒の水を飲む。
「じゃあ、聞くけど、あなたの家系は良いとして、天地闘魔戦争の勝敗は?」
「先ほど言ったとおり、勝敗は決まっていない。そして、ついでに言うなら、これは武力都市も知っている。そして、俺の考えだがな。」
「ぶ、武力都市って、エ、エルカセイドのこと!?」
 武力都市エルカセイド。武力による統一、強さによるものが権力を持っている。そして、武力による侵攻が広がっているが、他国がそれを阻止している。
 その大きな名前が出たことによって緩矢は驚いている。
「そうだな。武力都市エルカセイド。奴らと戦魔神団はつながっていると思う。そして、戦魔神団は玲奈をつけねらっている。」
「じゃあ、その戦魔神団の目的は、その侵攻するために玲奈ちゃんの力を利用して天界、魔界を攻め入るつもりなのね?」
「その通りだ。それは、阻止しなくてはいけない。俺の残る記憶が確かなら‥‥‥。」
 そう言って、光山は剣を持つ。
「残る記憶?」
「いや、何でもない。」
 そう言って光山は窓に向かって剣を定める。
「ああ、後はおまえの判断に任せる。」
「ちょっと待って、それは玲奈ちゃんに言ったの?」
「いいや、玲奈には言っていない。そして、あいつは後継者じゃない。血筋による記憶はあるがな。」
「じゃあ、玲奈ちゃんは知らない驚異におびえるだけじゃないの!?光山の自己満足だけで済むと思っているの?」
 緩矢の言うことはもっともだ。知らない驚異におびえるのはすべての生物にある恐怖だ。
「なら、なんと説明すればいい?」
 光山の言うことにも間違いはない。なんとなしでも話してしまえば、わからないことばかりだ。人間は知らないことには恐怖、差別が生まれる。光山はそのことに対する恐怖を、身をもって知っている。
「光山はそれで良いと思っているの?」
「事が終わったら話す。」
 光山はそう言って剣を窓に向かって突こうとする。
「その先には玲奈ちゃんがいるわよ。」
 すると、窓に当たる寸前に剣は止まる。
「なるほどな。確かにこの防音の外系統同時操作間魔法術は至近距離では無意味だ。あらかじめ、下調べをした上で来たと言うことか‥‥‥。」
「そうよ。で、どうするの?このことを改めて玲奈ちゃんに話す?別に私から話しても良いけど?」
「悪いが、覚悟がない人間にこのことを話すのは頂けないな。」
 光山の視線が緩矢に刺さる。その視線は冷たい殺気が混ざった殺意の眼だ。
「そうね?なら、私はこの場に仕掛けた魔術を起動するわ。」
 そう言って、緩矢は光山に指先を向ける。
「「‥‥‥。」」
 張り詰める空気がその場を襲う。
「悪いけど、私も私なりの覚悟をしたわ。」
 緩矢が口を開く。しかし、冷たい殺気は緩矢に向けられている。
「そうか。だが、その覚悟を折らせてもらう。」
 光山は改めて剣を構える。その先には緩矢がいる。
「私はあなたのように不器用な優しさには感動するわ。けど、あなたは間違っている。口で言わないとわからないことだってある。」
「そうだな。だが、口で言ってもわかってもらえないことだってある。」
 そう言って、光山は剣を突き出した。
「!?」
 しかし、その閃光のごとくの刺突は紙一重で緩矢は回避した。そして、光山に抱きつく。
「そこから、どうするつもりだ。」
 光山は空いた片手からナイフを袖の下から取り出し、ナイフの照準を緩矢の背中に向ける。
「私は女よ?あなたはそれで硬直するんじゃなかった?」
「!?!?!?!?!?」
 その言葉に光山は文字通り硬直し、失神した。

 光山が目を覚ますと、自分の家だった。あの街外れの小屋ではなく。自分の家だ。そして、周囲に敵はいないかと確認する。しかし、その様子はない。だが‥‥‥。
「ぐっ」
 光山は体も動かすことができなかった。口には猿ぐつわ。思念の法術を使おうにも。
「‥‥‥ぐっ!!」
 妨害があるのか思念の法術を使用するにも体中に強力な電流が走って思考が乱れてしまう。
「目が覚めた?」
 そこには緩矢と玲奈の姿があった。緩矢は満身、してやったりと言わんばかりの表情で光山を見ている。対して、玲奈は申し訳なさそうに光山を見る。
「あなたをここに来るようにするにはこれしか、なかったのよね。」
 そう言いながら緩矢は猿ぐつわを解く。
「俺に何を求める?」
「簡単よ。玲奈ちゃんの話を聞いてあげなさい。」
 光山はそう言って、頷く。そして、口を開く。
「Anti、Cat Spell」
 そう言うと、光山は起きあがる。
「口さえ使えれば、どうにでもなる。」
 光山はそう言うと緩矢は光山の襟首を掴んで
「あなた!人の話聞いてたの!?」
「聞いていたさ。だが、同じ視線じゃないと失礼だろう?」
「‥‥‥じゃあ、逃げるつもりはないのね?」
「ああ、話してくれ。」
 そう言われて、玲奈はこくんと頷く。そして、手近な椅子に座る。
「兄さんは、なぜ、私を捜してくれたんですか?」
「‥‥‥父さんとの約束だからだ。」
 光山は少し言い淀む。
「約束?」
「あ、ああ、そうだよ。俺は父さんから『あの子は守ってやってくれ。一人でもあの子は生きれるかも知れない。だが、何が起こるかわからない。できる限り、守ってやってくれ。自立できるようになったら、おまえも自由に生きてくれ。』と言われてな。俺はおまえと生き別れてから13年間、自分の手を汚してでも探し回った。だから、俺はおまえの嫌いな血生臭い人間にもなった。正統に生きようとも思った。だが、あのような事が起こってしまった家系では疎まれるのがオチだった。だから、俺は自分の力を信じて生きてきた。」
 光山はそう言うと玲奈はポロポロと眼から涙を落とす。
「兄っ‥‥‥さん。ご、めん‥‥‥なさい!!あんなっ、事をっ!言ってしまって!!」
「気にするな。俺は俺の意志でやった。」
 光山は悪びれた様子もない。
「本当に自分の意志でやったと思ってるの?」
 そこに冷たい言葉が放たれた。言葉の主は緩矢だ。
「何が言いたい?」
 またもや、光山から緩矢に冷たい視線が刺さる。しかし、緩矢もモノともしない。
「あなたは、確かに自分の意志でここまで来たかも知れない。けど、本当にあなたの意志だけなの?」
「‥‥‥なるほどな。緩矢は俺が父さんの手のひらの上で踊らされていたと言いたいんだな?」
 光山は冷たい視線をやめる。
「ええ、あなたはそれを途中で投げ出せた。だけど、あなたのその優しい性格と言い。私は踊らされているようにしか見えないのよ。」
「はっ、なるほど、おまえの言いたいことはわかる。そうだな。俺は踊らされていた。確かにな。それは認めよう。だがな。おまえは本当にそう言っている理由は違うんじゃないか?」
 鼻で笑った後、光山の真摯な瞳が緩矢を貫く。それは真面目で光山の本当の真剣さを垣間見た気がするほどに。
「え?」
「おまえは、自分の父親を憎んでいたんじゃないか?おっと、これは独自におまえのことを調べた訳じゃない。これは俺の見解だ。」
「‥‥‥悪いけど、席外すわ。」
 緩矢は顔色を悪くして光山の部屋を出る。光山はその緩矢の背中をずっと見ていた。
「兄さん。すみません。本当に‥‥‥。」
 玲奈の言葉に光山は玲奈に顔を向ける。
「気にするな。」
 光山は少し、顔を下げて言う。
「あ、あの‥‥‥。」
 玲奈は少し恥ずかしそうに光山を見る。
「兄さんは失神するかも知れませんけど、もう一回抱きついていいですか?」
「あ、ああ、構わん。努力する。」
 そう言って玲奈は、ぽふっと光山に身を預ける。
「ああ、やっぱり、兄さんです。」
「何を言ってる。13年も月日が経ったんだ。全然違うだろ?」
「確かに、あのころの兄さんとは全然違います。けど、兄さんの暖かさは忘れていません。」
「ば、ばか。そんなのあるはずないだろ!!」
 そう言って光山は顔を赤らめる。
「確かに、血の臭いもしますけど、兄さんは暖かいです。」
「そ、そうか‥‥‥。」
 光山はそう言って黙り込む。そして、しばらくして玲奈は離れる。
「ごめんなさい。兄さん。改めて謝ります。ごめんなさい。」
「二度も三度も言わなくていい。理解されたなら構わない。」
 そう言って光山は優しく笑う。
「え‥‥‥。」
「どうした?」
 光山は表情を戻す。
「いや、あのころの兄さんの笑顔より、すごい笑顔がきれいだなと思って‥‥‥。」
 光山は急に顔を赤くして背を向ける。
「った!そんな恥ずかしいこと言うな!!」
 決して完全に怒っているわけではない。恥ずかしくて怒っている程度だ。
「で、兄さん。事をすべて話してもらえるんですよね?」
「‥‥‥ああ、すべて話そう。」

 光山がすべてを話し終わった頃には暗かった空が明るくなっていた。
「兄さん。今日、学校休むんですよね?」
 玲奈はまるで決めつけたかのように言う。
「なぜだ?」
 しかし、意図を解せない光山は逆に質問する。
「詩穂さんにあのような質問をしておいて放っておくんですか?」
「俺は深入りしたくない。」
 光山は面倒そうに言う。
「あのような人は珍しいですよ。人の真意をとらえる人なんて、滅多にいません。ですから‥‥‥。」
「はぁ、おまえのお節介は昔から変わってないな。」
「それはもう!私は人の笑顔が見たいですから!!」
 光山は面倒くさそうに頭をかきながら、緩矢の部屋に行く。そして、部屋の前の立ち、ノックする。
「入るぞ。」
「悪いけど、気分が悪いの。あとにして‥‥‥。」
「うるさい。そんなこと知ったことか。」
 そう言って光山はドアを開ける。
「うわ‥‥‥。」
 そこは混沌だった。着終わった衣服が散乱しており、部屋は見事に混沌に満ちていた。
「入ってこないでよ!!」
 と、緩矢は手元にあるモノを投げる。
「んがっ!!」
 見事、そのものは光山に命中する。そして、失神。
「あ、やば、前に読んで魔術書だ‥‥‥。」
「ってえなぁ。んで、話があるんだが‥‥‥。」
 光山は直撃した頭をさすりながら起きあがる。失神はしていなかったようだ。
「悪いけど、今話せる気分じゃないの。」
「そうか。なら、勝手に聞け。」
「私はそんな気分じゃない。」
「知るか。おまえは、親が嫌いなんだな。」
「そんなことどうでも良いでしょ!?」
「ああ、確かにどうでも良いことだな。だがな。本心を言うなら、俺も親父を何度も恨んださ。」
「え?」
 光山の意外な言葉が出ることに緩矢は目を丸くする。
「理由は簡単だ。あの言葉は小さかった俺には重かった。手がかりもない。生きる術は奪うだけ、その場所からどうやって出て行けばいいかわからなかった。おまえはある程度、育てられた上でこの場にいるんだろう?俺は、知識はあっても経験はない。おまえはまだ恵まれている。例え、どのような環境でもな。」
 光山の目つきが変わる。殺気ではない。それは厳しい父が子供を叱るような雰囲気と目つきを漂わせる。
「なら、息子が死んだというのに葬式に来ない父親は!?妻が死んだのに葬式に来ない父親はどうだって言うのよ!?」
 そう緩矢は罵声をあげる。
「‥‥‥はぁ、俺の剣技はな。」
「話関係ないじゃない!!」
「まぁ、聞け。」
 そう言って光山は息を吸う。
「俺は第47代目翔空蓮閃流奥義伝承者『震衝』から『蒼華』を継承した。」
「!?」
 緩矢は硬直した。
「知っての通り『震衝』は緩矢 黎明‥‥‥キミの父親だ。」
「じゃ、じゃあ、あなたのせいだというの!?」
「ああ、そうだ。だから、恨むなら、父親を恨むべきじゃない。俺を恨んでもらって構わない。」
 光山はそう言うと背を向ける。
「待ちなさいよ。」
「‥‥‥。」
 光山は出て行こうとしていたのだが、足を止める。
「あなたがいた御陰で父さんは葬式に来れなかったのね。」
「ああ、そう考えて間違いないだろう。俺も葬式に行くように薦めた。だが、黎明は頑なに拒否した。」
「‥‥‥じゃあ、私をここに住まわせることを許したのは罪滅ぼし?」
「まさか、住まわせたのは気まぐれ‥‥‥。あと、ここに来た理由は玲奈に脅されてしまってな。このままだったら、一生飯を食わんで餓死するかも知れないと言われてな。そんなことがあったら後味が悪いからな。」
 そう言って光山は背を向けた。
「悪いけど、私はあなたを憎むことはできない。」
「なぜだ。原因は俺だぞ?」
「あなたは生きるためにあの流派を継承したのでしょ。父さんもそれを知っていたかは知らないけど、滅多に直弟子なんて取らない。あなたにはそれほど目的を持っていた。それを知っていたからこそ直弟子にしたんじゃないかな。」
 そう言う緩矢は笑っている。
「無理はするなよ。」
 光山はそう言って出て行く。
「ちょっと待って、一つだけ聞かせて!」
「なんだ?」
「あなたは何で翔空蓮閃流を継承したの!?」
 光山はその一言に真剣な目つきで緩矢を見て
「少し、簡潔な昔話をしようか。」
「え?」

「あるところに孤児がいた。その孤児は魔法術だけを使って生きていた。少年はそれだけで生きていけると思っていた。」
 光山は廊下と階段を挟んで向かい側にある窓からの光景を見る。
「少年はStrangerだった。そして、依頼が終了して帰還途中だった。とても危険な帰還だった。なぜか?そう、少年は大怪我をしていた。依頼は魔物退治だった。とても簡単だと思われていた依頼はかなり困難の色を示した。そこで、少年は大怪我を負って、その在る今に至っていた。だが、少年という小さな体では怪我の大きさは測りきれなくて帰還途中に倒れてしまった。」
 光山は階段のカウンターに寄りかかって緩矢の部屋の方を見る。
「少年が眼を覚ますと暖かいベッドの上で目を覚ました。気がつくとそこには女の人がいた。その女の人が少年を助けた。だが、少年の過去は非道い。騙し騙される世界に生きてきた。その少年が無償の親切を信用できるだろうか?否、できるはずもなかった。少年は怪我のため動けなかったが、その女の人の警戒を解こうとはしなかった。しかし、ある時だ。女の人は痺れを切らせてこういった。」
『人を信用しないのも良いけど、信用することも覚えなさい!!』
「と、言われたのだ。少年はその言葉の意味がわからなかった。そして、そのあと女の人は少年の経緯を聞いた。少年は少し怯えていたのか。自分の過去を話した。そして、女の人は笑っていったのだ。」
『なら、私がお母さんになってあげる』
「と、言ったのだ。少年は知識だけはあるのか。言っている意味がわからなかった。だが、それ以来少年は少しずつ心を開き始めた。」
 そう言ってから光山の視線が冷たくなる。
「そんなある日、少年の母親となった女の人は暗殺者に命を狙われていた。」
 そこで延々と聞いていた緩矢の口が開かれる
「何で狙われていたの?」
「さぁな。これは昔話だ。過去を知るものは作った人間だけだ。話を続けるぞ。」
 そう言って光山は再び窓の方を向いて背を向ける。
「その女の人は暗殺者が来るたび、撃退していた。しかし、今回は違った。その少年も守らなければ命が危うかった。その少年も女の人もな。そして、来るべき日が来た。女の人は少年を守りながら暗殺者と闘った。しかし、暗殺者も少年がいるとわかると、すぐに少年の命を狙った。そして、少年も女の人を手伝おうと魔法術を使用した。だが、それが間違いだった。少年は女の人を守る一心で魔法術を暴走させてしまったのだ。その暴走は凄まじく、暗殺者も撃退した。しかし、それだけで終わるものではなかった。そう、俺は今『暗殺者【も】』と言った。その暴走は女の人まで狙ったのだ。女の人は致命傷で、住んでいるところもかなり街外れ、決して医者を呼べる場所でもなく、連れて行ける場所でもなかった。そして、女の人は静かに息を引き取った。それ以来、少年は力を求めた。守るべき力を求めて木の枝一本だけを添えた女の人の墓と決別した。」
 そう言って光山は振り返った。
「ま、こんなところだ。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「言葉も出ないって感じだな。ま、あくまで昔話だ。深く心につなぎ止めておくモノじゃない。だけどな。おまえには家族がいた。それだけでも幸せだって言うこともあるんだぞ。」
 その言葉に緩矢は悔いた。間違いなくこれは光山の話だ。だが、自分は家族の冷たさに怒り狂った。しかし、光山は家族も知らない。暖かさも知らない。明らかに自分の方が幸せだったといえる。病で死んでしまった母親と兄、その葬式に来なかった父を恨んだ。しかし、緩矢はそれを気にしないで生きている光山が強く思えた。
「ごめんなさい。」
「何のことを言っているか。さっぱり、わからんな。じゃあ、俺は寝る。」
 そう言って光山は自分の部屋に戻っていった。だが、その言葉は何のことを言っているのか知っていた。あえて光山はそれを知らないフリをした。

 翌日、光山は学校が終わった後、光山の家から南東にある遺跡の前にいた。遺跡の周りには探索者らしい人間はいない。いるのは門番をしている兵士だけだ。その周りの冒険者の数から考えてかなり手練れなモノではないと攻略は不可能な遺跡だと思われる。
「‥‥‥さて、不穏分子は他にもいるようだな。」
 光山は自分の持っているモノを確認する。コートの下を見るとびっしりとナイフが仕舞ってある。そして、両脇には銃のホルスターが、腰には二本の剣がさしてある。そして、コートの袖には銃が仕込まれていることを確認すると光山は遺跡に潜り込んだ。

 遺跡に入ると周りに燭台がたてられているモノの不気味な雰囲気は逃れることはなかった。そして、光山が遺跡を進んで3階層あたりで光山は足を止める。
「さて、魔法術の練習の対象になってもらうか‥‥‥。」
 光山は瞬時に空で弓を構えて虚空に向かって矢を放つ。
「戦の閃弓よ。我が呼応し、打ち抜け!」
 そう言って指から放たれた光の矢は虚空に向かって着弾し爆発した。
「‥‥‥。」
 光山は剣を抜く。
「草壁 唐真だな?」
「御明察だ。」
 そこに現れたのは黒い刀を持ち、褐色の肌に黒い髪の色をした黒いローブを纏った男が光山の目の前に立っていた。
「‥‥‥全く。あのように闘う気のない剣を向けられても対応のしようがないぞ。」
「どうする?殺り合うか?」
 唐真は剣を構えるが
「まさか。つけていることが気に入らなかったから威嚇しただけだ。」
 光山は構えを解く。
「いつから気がついていた?」
「昨日からだな。」
「最初から気がついていたのかよ。かーっ、やってらんねぇな。泳がされていたんかよ。」
 唐真はやってらんねぇと言わんばかりに手をひらひらさせる。
「別に尾行するのは構わないが、本人に気がつかれないようにしてくれ。」
「尾行されることにはかまわねぇのかよ?」
「それは自分の不足だからな。相手を責めることはできん。」
 光山は笑う。だが、笑い方はとても含みのある笑い方だった。
「まぁ、おまえも、重翔の『閃』の持ち主なら、やることをやって欲しいモノだな。」
「なっ!きさま!?」
 唐真は自分の素性を知っていることに驚いている。
「ああ、自己紹介はされているが、詳細は知らなかったようだな。これで2度目だが挨拶はまだだったな。俺は『第48代目翔空蓮閃流奥義伝承者』の『蒼華』だ。そして、StrangerRank『S』、称号名『紅黒の疾風』だ。」
 そう言うと唐真の表情は青ざめる。
「けっ、これじゃ負け戦じゃねぇか。わーったよ。目的は何だよ?」
「別に俺の用事はないが、他の奴に用事があるらしくてな。いい加減、出てきたらどうだ?」
 光山は唐真のさらに後ろを見透かす。
「やっと見つけた。クサカベ トウマ‥‥‥。」
「フィルシア・グランレイド‥‥‥。」
 光山はやることを終えたと思い。大人しく、その場を去ろうとした。
「‥‥‥ほぅ。」
 光山は感嘆と声を出す。光山の目の前には自分より2回り以上の魔物が待っていた。
「仕方ない。」
 光山は人差し指と中指を合わせて空を切る。
「先取、白刃!貫腕!裂天!」
 そして、描かれたのは複雑な紋章。そして、光山の言葉から二つの刃が現れる。
「紋章は槍を持ち我が敵を射て!言の葉、朱滅!!」
 すると、光山の言葉から発される音声術と紋章術の二つの術は魔物を同時に襲いかかる。
「追加だ。そろそろ、付加弾の効果も切れる頃だからな。」
 そう言うと光山はコート下のホルスターから銃を取り出して、全弾を魔物に叩き込む。
「ま、これで終わりだな。」
 そう言って、光山は銃から空の弾倉を取り出して新しい弾倉に入れ替える。しかも、それは神業ごときの早業だった。そして、空の弾倉は捨て置くのではなく再利用するつもりらしい。
 一方、フィルシアと唐真はその光景を見て
「なんか、闘っている自分が恥ずかしくなってきた。」
 唐真は光山の先ほどの神がかりじみた戦闘に自信喪失してしまう。
「同じく。けど、敵が目の前にいるのにこんなのって‥‥‥。」
 フィルシアも同じだった。光山の神速、そして的確な攻撃は誰が見ても言葉を失うほどの正確さだった。
「かーっ、気にすんなって!御要望ならここにいてやんよ。確かに俺様はあんたの両親を殺したからな。」
 唐真はそう言って壁によりかかるが、すぐに立ち上がって
「わり!一つ上の階層で頼む!ここにいるとトラウマになりそうだ。あの戦闘とか!あの戦闘とか!」
「え、ええ、私もそれで構わないわ。」
 そう言って光山はやりとりを見ていた。
「やはり、おまえの覚悟はその程度か?」
 光山はそう言ってフィルシアの横を通り過ぎる。
「っ!あなたに!」
 フィルシアは刃を召還して再び光山に刃を向ける。
「2度目は食らわない。」
 光山は振り向いて手を開く。するとその刃は手に刺さる寸前で制止する。
「効果無効、矛盾崩壊、防御展開、開始」
 するとフィルシアと唐真の眼に光山が不可視の壁に守られていることを知る。
「面倒だ。文句があるならいくらでも聞いてやるよ。」
 光山は剣を抜く。それだけで、気圧されるフィルシア。
「おいおい、敵討ちの前に前哨戦かよ。頂けねぇな!オイ!!」
 唐真はフィルシアの前に立つ。
「なっ、おまえの力など借りない!!」
 光山はふと笑う。
「仕方ないか。草壁、ここはおまえに任せる。」
「ちょ!ちょっと待てよ!同門の仲じゃないか!俺はサボってばかりだったから、破門されたけど!!」
 光山は沈黙する。表情はとても面倒くさそうな表情をしている。
「ほぅ、俺にたてつくか?」
 今までにないほどの光山の闘気。身の毛がすべて逆立つ。
「しゃーねぇな。フィルシアだったか?」
「何よ?」
「停戦協定だ。ありゃやばい。さっすが、奥義伝承者って言うところかな。俺も負けそー。」
 唐真は笑いながらも剣を構える。対して、光山は銃を取り出す。
「銃でいいのかよ?」
「別に殺すつもりはねぇけどな。」
 唐真はそう言われつつも後ずさる。
「おいおい、気方剣かよ!?」
 唐真の視界から見えたのは銃から発せられる青い光の刃だ。
「気方剣って?」
「翔空蓮閃流の技の一つでな。いかなる時でも敵と打ち合えるために生命力を使用して気の剣を発生する技。あ、ちなみにこれは俺でも使えるぜ!その代わり、へなへなだけど。ちなみに、生命力って言っても人間に根付くモノじゃなく精神力って言った方が正しいな。」
 緊張感がないのか唐真は笑って光山に斬りかかる。しかし、気方剣と呼ばれる力を施された銃で受け止められる。
「って!援護しろ!俺だけじゃもたねぇ。」
 唐真は連続で攻撃を仕掛ける。光山はそれを的確に受け流す。
「な、なぜ、仇であるあんたを手伝わなきゃいけないのよ!!」
「‥‥‥予定変更だ。邪魔だ。唐真!!」
 光山は斬りかかってきた唐真の攻撃の向きを強制的に他の方向へ変える。そして、唐真を壁まで蹴り飛ばす。
「そこで黙っていろ。封止、四肢!」
 そう言うと光山の指が素早く動くと紋章が描かれて唐真の手足が光の輪に縛られる。
「んじゃ、おまえの覚悟を確かめさせてもらう。」
 光山は気方剣を解く。そして、フィルシアに銃口を定める。
「なに、死なないさ。屈辱は味わうさ。」
 光山は笑って銃の引き金を引く。
「うぁっ!!」
 右腕を銃弾が貫いた。
「まだだ。」
 今度は左足に銃弾が貫く。
「さて、これで唐真を打ち抜け。」
「なっ!何ですって!?」
 光山は自分の銃をフィルシアの前に投げる。
「な!こんな展開で俺死んじゃうかも知れないの!?」
「ああ、そうだ。死ぬかも知れないな。」
 光山はふと笑う。
「俺とおまえの仲じゃんよ!」
「悪いが、訓練所でおまえと話したことはない。顔を知っているだけだ。」
「あ、いや、そうだけど、同門を助けてくれても良いんじゃない!?」
 唐真は必死に光山に言い寄るが、光山はふと笑ってフィルシアを向く。
「さぁ、お膳立てはしてやったぞ。どうする?」
「‥‥‥。」
 フィルシアは黙っている。
「私は‥‥‥。」
「一つ、判断を鈍ることでも言ってやるか。おまえの親、何をしていたか知っているか?」
「え?」
「やめろ!その子はしらねぇんだ!仇なら仇で良いだろ!!」
「レシィム草の売買だ。」
「っ!!」
 レシィム草。こちら側の世界で言うなら大麻だ。その売買をしていた人間を唐真は殺した。だが、唐真は知らなかった。その人間に子供がいたことに
「‥‥‥それは本当なの?」
「ま、知らないだろうな。3日前、おまえの家に行ってきたが、レシィム草は地下に栽培されていた。まぁ、放置してきたがな。確か、唐真は自由傭兵《フリーランス》だったよな?」
「ああ、そうだが、これじゃあ、生きる意味を無くしてしまうだろ!!バカな事しやがって!!」
 唐真は起こって光山に罵声を浴びせる。
「うるさいな。復讐に狩られたものなんて、ろくな人生、歩めていけん。だから、横槍を出しただけだ。」
「わかるけどよぉ。」
 ばつの悪そうな表情をする唐真
「ま、話が進まないからな。フィルシア!貴様が殺さないなら、俺が代わりに手を討とう。」
 そう言って光山は銃をもう一丁、懐から取り出して銃口を唐真に向ける。
「じゃあな。恨まれても構わん。」
 そう言って光山が引き金に指をかけた瞬間に銃声が響いた。
「‥‥‥それでいい。」
 光山の手は銃弾で撃ち抜かれていた。その証拠に銃を持っていた手には何も握られていない。
「え?」
「おまえは僅かな判断だけでも人の命を守った。例え、復讐するべき相手でもな。」
「どういうことよ?」
 フィルシアは理解できていなかった。
「いいか。どんな人間であっても命を奪うことは許されない。まぁ、俺はその分別はあまりないがな。だが、おまえは暖かい環境で生きていたと俺は察する。おまえは手を汚しちゃいけない。それが、経験の多い同い年の言葉だ。」
 そう言ってフィルシアは少なからずとも感謝した。
「んじゃ、本心だ。」
「「え?」」
 唐真とフィルシアは同時に声を上げる。
「俺は仇討とうが、討たないが知ったこっちゃねぇ。勝手にしろ」
 その言葉に硬直する二人。
「どうした?二人とも」
「いや、なんか失望。」
「ほっとけ。本来、俺は無干渉だったのに、こいつが戦魔神団にいいように扱われてるから、どうにかしただけだ。」
「あー、それねー。俺もいろいろ、あるんさー。」
 そう言って唐真は言うと同時に光山は捕縛の魔法術を解く。
「っと、んじゃ、俺もやること済ませるかね。」
 唐真は光山との間合いを詰めて刃を向ける。
「‥‥‥無駄。今日は乗り気じゃない。さっさと人質の様子でも見てくるんだな。」
 光山はそう言って姿を消す。どうやら魔法術か何かの手段で姿を消したようだ。
「なんというかプロフェッショナルよね。」
「そりゃあなぁ。あいつは抜きんでて優秀だったからなぁ。訓練所でも‥‥‥。」
「そうなの?」
「ああ、俺が破門される頃には訓練所内では最強って言われてたし‥‥‥。」
 そう言って、唐真は剣を治める。
「ふぃー、んじゃ、どうする?仇討つ?」
「‥‥‥やめておくわ。私は自分の家の事情を調べる。それを吟味してから、あなたを殺すか決める。」
「あっそ。んじゃ、さっさと帰ろう。」
 唐真はスキップしながら地上に向かった。それにフィルシアもついて行った。

 そして、家に帰った光山は
「眠い。」
 すぐさま、自室に向かってベッドに飛び込んで眠りにつく。
「ふっふっふー。そんな無防備じゃ、私の包囲網はかいくぐれないわよー。」
 そう言って入ってきた黒い影
「んじゃ、うっしっし!」
 そう言いながら黒い影は光山の掛け布団の中に入ろうとする。
「‥‥‥緩矢、俺が知らないで黙っていると思っていたのか?」
 その影の正体は緩矢だった。
「っ!ってか、その恥ずかしい格好をやめろ!!」
 緩矢の姿は下着姿だった。その肢体は綺麗で珠のような肌だった。しかし、その姿に恥ずかしさに光山は即座に背を向ける。
「あっら〜、大人っぽい光山にも子供っぽいところがあるのね〜。」
「っ!!」
 緩矢は光山の方にふれようとすると、光山はそれを察して姿を消した。
「ありゃー、うぶねー。こんな誘惑で逃げ出すとわー。」
 緩矢は頭をかきながら自分の部屋に戻る緩矢
 当の光山は家の屋根の上で酸欠症を起こしながらしゃがんでいる。
「はーはー、何考えてんだ‥‥‥?」
 光山はふと空を見上げる。それは満点の星空ではあるのだがなにやら不穏な空気が漂っている。
「‥‥‥まぁ、いいか。」
 そう言って光山は屋根から飛び降りる。
「光山 陣‥‥‥。」
 まだ、光山は知らない。狙っている敵の大きさを‥‥‥。

 翌日、光山は朝早くから学校に来ていた。と言うモノの光山に委員会などの仕事はない。だが、早朝から来ている光山に目をつけている人間がいた。
「‥‥‥先ほどから何を見ている?と言っても対象は俺らしいがな。」
 光山は窓から入ってくる風を感じながら本のページをめくっていたが周囲に現れる気配を感じとり言葉を放つ。
「うーん。いいねぇ!」
 そう言って出てくる女。だが、光山は目立った反応もせず、読んでいる本のページをめくる。
「あなた、風紀委員にならない?」
「断る。旅学生の俺に誘うのは感心しないな。」
 光山はそう言って再びページをめくる
「‥‥‥下らん。」
 光山はそう言って姿を消す。
「!?」
 光山はふむと頷きながら、その自分の教室の窓の上に立っていた。
「生徒名簿の中には存在しない人間か‥‥‥ややこしいことになってきたな。」
 光山が見ていたのは生徒名簿だった。
「まったく‥‥‥。」
 そう言って、光山は生徒名簿を虚空の中へ入れる。
「個人情報の漏洩とか、なりふり構わなくなってきたな俺も‥‥‥はぁ。」
 深いため息をついて、光山は窓から教室に入る。
「あ、戻ってきた。」
「面倒は嫌いだからな。」
 光山は瞬間に女の喉元に向かって刃を突きつける。
「どういうつもり?」
「転校生なら謝ろう。だが、生徒名簿に無い以上、警戒を怠ることはまかり成らん。」
 静寂が彼らを襲い。その警戒こそが現在の光山の武器になるとは光山も予想だにしていなかった。


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