「あのスカした顔に一発しわ寄せねぇと気がすまねぇ!!」
「で、でもよ。相手は旅学生だぜ。そんなヤツに勝てんのかよ!?」
「んなもん、どうにかする。あいつを旅学生から辞めさせてでもな。」
Second Mission
それが貫く世界
光山は初日のカリウス第二附属高等学校の授業である実地修練を受けていた。
「今日の男子の実地は模擬戦をやる。」
エーという反感を買う声が男子生徒達から聞こえた。
「女子はいつも通りにやってくれ。男子はえーと、一人余るんだよな。転校生はそいつとやってもらうか。」
体技修練の先生は男子の方を見てうなり始める。
「先生!」
そこで先生に呼びかけたのは転校初日から光山に因縁をつけてきたグレンであった。
「どうした?グレン。いつものサボりか?」
「転校生と模擬戦をやらせてください。」
「んー。そうだな。おまえといつもやらせてるヤツとやるくらいなら、未知数の転校生とやった方がいいな。まして、おまえも一度は旅学生に勝ったわけだし。よし、では、今日の一番目だ。」
模擬戦は一組ずつ行われる。理由は他の学生にもその生徒の良いところ悪いところを学んで貰うためでもある。他にも先生が評価をつけやすいようにするためである。
「では、一礼!礼ッ!!」
光山とグレンは木刀を左手で逆手に添えて一礼する。
そして、二人は木刀を構える。
グレンは正当に木刀の切っ先だし青眼を構える。
対して、光山は左手で逆手に木刀を持って前に突き出すだけである。
「む、あれは‥‥‥。」
先生はボソリとつぶやく。すると他の生徒が
「どうしたんですか?」
「珍しい型だと思ってな。あの型は確か‥‥‥なんだっけな。」
先生は髭をふさふさといじり考え始める。
「いつものど忘れですか?精神科行ったらどうです?」
体技修練の先生は世辞にも若いとはいえない。杖で体を支えてはいないものの、近いうちに天寿をまっとうできそうな表情ではある。そこに、一人の生徒はシャレにならない言葉をさらりと口に出す。
「何言ってる。俺は未だに現役だぞ。」
「はいはい、そうですね。」
生徒はあきれて二人を見守り始める。
「てめぇ、その型、バカにしてんのか?」
「一切、そのつもりはない。来ないのか?」
グレンは少し激昂気味で言うが
「てっめぇ!?御要望に応えてやるよ!!」
グレンは木刀を振り上げて光山を叩き付けようとするが、光山は木刀の掴む部分『柄』で木刀の軌道を光山から見て左にずらす。そして、ずらした柄を右手で握り居合いを構えて
「!?」
周囲が驚きの声を上げた。光山はグレンを一閃した。はずだったのだが、代わりに木刀が折れて、グレンの左後方の地面がえぐれていた。
当のグレンは光山の瞬時に勢いに固まっている。
「思い出した。翔空蓮閃流だ!」
そう言って、体技修練の先生は思い出す。
「しかし、あの年齢で翔空蓮閃流を身に付けているとはさすが、旅学生様々じゃの。」
そして、光山は木刀の折れた先を拾う。
「けど、先生。翔空蓮閃流って、あまりもの練習の厳しさで俺たちの年代じゃ受けないって聞いてるんですが‥‥‥。」
先ほどの生徒が光山に質問する。
「ああ、そうだな。どうしてだ?」
「いや、別にその修練に耐えているだけです。」
光山は少し目を泳がせながら言う。間違いなく嘘をついているような表情。しかし、事情があるのを察してか全員は問い詰める気に離れなかった。
「そうか。がんばるな。」
光山は乾いた声で笑う。
「お、俺は!認めない!こんなヤツが翔空蓮閃流を持っているなど!俺は認めん。」
グレンは我に返って光山に言う。
「‥‥‥そうか。まぁ、また機会がある。その時にがんばってくれ。」
そう言って今回の実地修練は光山とグレンの一騒動以外何もなく終わった。
そして、次は魔法言語の授業だった。
「わからないことがあったら何でも聞いてね!!」
フィルシアは光山に仲よさげにいうが
「あ、ああ、だが、大丈夫だ。」
そう言って、びくついている。
「では、えーっと、光山君でしたね。風と地の相対関係を簡潔に言ってください。」
「え、あ、はい!風と地の相対関係は互いに干渉しづらいところです。」
光山は立ち上がって言う。
「ほう、それは、どうして?」
魔法言語を担当している先生は興味深そうに質問すると、先ほどから何かに警戒していた光山とは表情が変わって
「確かに、風と地は相対するモノですが、完全とは言えません。風化という言葉があるようにわずかな風を永続的に当てていれば、何千何百とかかりはしますが地のモノは削れます。故に干渉しづらいと考えています。」
前を見た揺らぎの無い目つきで先生を見返す。
「なるほど、興味深い答えですね。これは少し、私の方で研究して見ないといけないですね。では、風と雷の相互関係を‥‥‥。」
「すごいねー。光山君は‥‥‥。」
フィルシアは素直に光山を褒め称える
「あ、いや、このぐらい普通だ。」
だが、光山は謙遜と動揺で乾いた声で言う。
「どうしたの?気分悪いの?保健室は!?」
そう光山の顔は青ざめている。それを察してか覗き込むようにフィルシアは光山の顔を見る。
「だ、大丈夫ですから!気にしないでください!!」
光山はそう言って後ずさる。思わず敬語になってしまったことに後悔の念を残す光山だが
もちろん、グレンはその瞬間を見逃していなかった。
光山はその帰りに紹介された不動産屋に向かっている途中
「緩矢?」
ふと、裏路地の方を見ると緩矢らしき人影がよぎる。
「‥‥‥。」
光山はその緩矢を見かけた裏路地に向かい始める。だが、その裏路地に入っていく。
「見られてしまってはしょうがない!悪いが、ここで死んで貰う!!」
姿はよく見えないが男の声がする。そして、振り上げる刃だが
「あの姿は間違いない。緩矢だな‥‥‥。」
瞬間、光山は数百メートルある場所なのだが
「‥‥‥悪いが、俺の連れに何をしようと言うんだ。」
その大きな間合いを無視して瞬時に緩矢の前に出ていた。男の姿は、至って筋肉質で剣を二本持っている。そのうちの一振りは手にしていたが光山はその狂気の刃を吹き飛ばしていた。
「ひか‥‥‥りやま?」
緩矢の涙目の中には紅い髪で黒い服の男が立ちそびえていた。
「邪魔だてするか!?」
男は光山をにらみつけるが
「もちろんだ。一応、これでも知り合いになった人間だ。ただでは死なせないさ。」
光山もそれ以上の眼光でにらみ返す。それに男は一二歩、後ろへ退く。
「‥‥‥んなくそぉっっ!!。」
男は光山に折れた刃で斬りかかるが
「勝てぬ戦に花を添えるとは‥‥‥愚の骨頂!!」
光山は襲い来る刃をかわして、瞬間で間合いを詰め、肘打ちで男を飛ばす。
「かはっ!うぐっ、おごぉぉぉっ!!」
男は壁に背中からぶつかり、その背中から伝わるショックで中の異物をはき出す。
「行くぞ。緩矢。」
光山は身を翻して、裏路地を出ようとする。
「あ、うん。」
そう言って光山達がその場を去ろうとしたとき
「逃がす‥‥‥わけには‥‥‥いかぬ。我が‥‥‥教団の‥‥‥人間を‥‥‥見たからには!!」
男は腰に差していたもう一つの剣をよろめきながらも抜く。
「緩矢‥‥‥さがっていろ。」
光山は振り返り、右腕で空を切り、腕を完全に伸ばしきる。
「ほう、その剣は飾りか?」
男は光山の腰に差していた剣を見て言うが‥‥‥。
「貴様に使うほどの剣ではない。」
光山がそう言うと、周りの大気が光山の伸ばしきった右腕に渦を巻いて集まり始める。
「無詠唱魔法(ゼロカウントスペル)!?」
緩矢は驚いて言う。この世界には魔法が湧いている。魔法は幾つかに分類されるが、緩矢が言ったのは詠唱速度の名称で最大『十章節詠唱魔法(テンカウントスペル)』、最低で『無詠唱魔法(ゼロカウントスペル)』と言われている。
一般的に使われる詠唱魔法は『一章節詠唱魔法(ワンカウントスペル)』から『半(五)章節詠唱魔法(ハーフカウントスペル)』までと言われているのだが、難易度は一番簡単で使いやすいとされている。だが、テンカウントスペルやゼロカウントスペルのように極端な詠唱になると危険性の高い魔法になる。
その中でも光山は難しい形である『無詠唱魔法(ゼロカウントスペル)』を唱えたのである。
「風よ。我に従え。我が力、我が願い。今ここに力を示せ!!」
「くそっ!!」
男は光山の危険な雰囲気を察知して間合いを詰めて斬りかかろうとするが
「残念だな。こちらはおとり(フェイク)だ。」
光山は少し、しゃがんで間合いを詰めて、ぶらんと下げていた左腕を立ち上がりざまに振り上げる。
だが、振り上げた左腕は男のあごを少しかすらせただけで決定打にはならなかった。
「残念だったな!!」
男がそう言った瞬間、男の膝が、がくんと折れ曲がる。
「残念は貴様の方だ。あごをかすらせたのはわざとだ。そして、あごにダメージを与えればダメージは膝に来る。由縁、油断したのはそちらだ。」
光山の渦を巻いて大気の集まった右腕を振り上げる。
「これを振り下ろせば、おまえは挽肉のように切り裂かれるだろうな。」
「ぐっ!きさまぁっ!!」
男は決死の一撃で剣を光山の顔面めがけて突き出したが、その剣は光山の眼前に止まって終わる。
「‥‥‥死など与えない。その自分の行為に後悔しろ。」
光山は眼前につきだした方の腕を肩を足で止めていた。そして、背を向ける。
「貴様!生き恥をさらすつもりか?」
「確かに、貴様を二度以上殺せただろう。だからなんなんだ?俺は完全に敵対出来るモノ以外、殺さない。故に貴様は完全に敵対出来るモノではない。ゆえに、殺すに至らなかっただけだ。」
そう言って、光山は裏路地を出て行く。そして、緩矢もその後に付いていった。
「いったい何をしていたんだ?」
「あ、いや‥‥‥‥。」
緩矢は先ほどの、光山の冷酷なのか冷酷ではない光山を見たために動揺している。
「やはり、怖いか。」
「え?」
「もし、俺に絡むのに懲りたなら、俺に関わるのはやめた方がいい。」
光山はそう言って歩き出そうとするが
「‥‥‥。」
「なんのつもりだ。」
緩矢は光山の服の端を掴んで制止させる。
「‥‥‥なんで、そんなに人を遠ざけるの?」
「それは、俺の勝手だ。」
光山は素っ気なく言って不動産屋へ行こうとするが
「悪いけど、あなたに有力な情報を私は掴んでいるんだけど‥‥‥。」
「‥‥‥どうせ、虚偽だろ。」
「光山 玲奈(ひかりやま れいな)‥‥‥。」
光山は緩矢からその言葉を聞いて立ち止まる。
「‥‥‥誰から聞いた。」
背を向けたまま質問する。
「ま、川島くんからね。それ以外、いないでしょう?」
「‥‥‥ちっ、何が欲しい?言えば、できる限りのモノは用意しよう。」
光山はそう言って振り返る。だが、光山の顔は不快の二文字しか書かれていなかった。
「高いわよ。」
にやりと笑って緩矢は光山を見る。光山は取引をする眼で緩矢を見ている。
「できる限りと言ったはずだ。」
「いいわ。なら、報酬は前金で『私をあなたの家に住まわせること』‥‥‥どう?簡単でしょ?」
光山はその言葉に一瞬、逡巡する。
「‥‥‥はぁ、それ以外の望みはないのか?」
「それに『衣食住の提供』ね。それ以外は譲れないわ!」
「‥‥‥わかった。俺の負けだ。」
光山は諦めて髪の毛をクシャクシャにして言う。
「やったぁっ!!」
「全く。ここまで俺の心に入ってきたのは義母さん(かあ−さん)以来だな。」
光山はボソリとそう言って不動産屋へ向かう。
「扉の前で待ってろ。金払ったらすぐに出てくる。」
そう言って、光山は緩矢を外で待たせる。
そして、数分もせずに戻ってくる。
「どうだった?」
「問題ない。契約は完了した。」
そう言って光山と緩矢が新しく買った家に行こうとすると
「待っていたぞ!光山 陣!!」
そこに立ちふさがったのは朝から光山に絡んできたグレンと数十人の不良だった。
「‥‥‥誰?」
緩矢は失礼にグレンに指を差して聞くが
「知らん。」
光山は少しあきれた顔で知らないふりをする。
「てめぇ、気にいらねぇんだよ!スカした顔しやがって――――――――!!」
グレンは自分の私情を光山にぶつけていく。
「満足か?」
グレンに言いたいことを言わせて、光山のその一言にグレンは
「きっさまぁっ!このシスコンが!やっちまえ!野郎共!!!」
グレンがそう言った矢先に‥‥‥。
「‥‥‥おとなしく聞いてればいい気になって!!」
緩矢はいきり立っていた。
「何も知らないで、光山のことを言いたいだけ言って!光山!なんか言うことないの!?」
「い、いや、別になんでもない。」
光山は緩矢のその怒りように挙動不審になって
「一言でもいいのよ!!言いなさい!!」
光山は一度考え、手をポンと叩いて
「おまえ‥‥‥」
瞬間、空気が止まり‥‥‥。
「弱すぎ」
決定打であったであろう。その一言でグレンは
「きっさまぁっ!!野郎共!手加減なんて必要ねぇ!!死ぬまでやっちまぇっっ!!」
「やるじゃない!光山!!」
緩矢はバンバンと肩を叩く。
「あ、ああ、でも、冷静になれよ。」
「え、ああ、そうね」
光山にそう促され、緩矢は深呼吸する。
「で、あれは、私の責任よね?」
緩矢は大勢の不良達の突撃に指を差す。
「ああ、ちなみに人に指を差すってのは失礼だぞ。」
断言する光山
「あははー。よろしく!!」
「自分で、招いたことぐらい。自分で処理しろよ。」
「だって、あんな数無理よ!どうにかして!光山!!」
緩矢は焦っていう。
「ちっ、仕方ない。これ持ってろ。」
光山はコートを脱いで緩矢に渡す。
「おわっ、重っ!!」
光山のコートを受け止めた緩矢の感想はそれだった。緩矢の感覚はずっしりとした剣を持っているような感覚だった。
そして、光山の真っ黒なコートの下は‥‥‥
「黒のラバースーツ?」
ラバースーツというのはいわゆるゴムの服で、光山のコートの下はタートルネックのラバースーツだったのだ。
「しっかし、この重さでいつも歩いていたって事は‥‥‥光山ってかなりの駿足?」
光山は次々に現れる不良達を、峰を狙って迎撃していく。ねらわれた不良達は次々に気絶して残るのはグレンだけになっていた。
「くっ!さすが旅学生と言うだけあるな!?」
「知らん。そのような肩書きなど‥‥‥。」
グレンは光山のその早さ、判断力に動揺していた。
「さて、どうする?そのまま、自分の行動を悔い改めるか?」
「否!俺はおまえに負けん!!」
そう言ってグレンはやけに古風に装飾された棒を取り出す。それの長さはおよそ60cmぐらいだろう。だが、その棒はなにやら周りの大気とは違う雰囲気を発していた。
「‥‥‥ゆけっ!サウザントスネイク(千の大蛇)!!」
すると、地面から蛇なるモノが現れて光山に襲いかかる。
「Artifact(アーティファクト)!?」
『Artifact』‥‥‥それは過去の先人達が来たるべき驚異に備えて失われた技術で作られたモノである。一応、そのものによってはA,B,Cなどと格付けされる。
そして、グレンが使ってきたモノはBランクのArtifactだ。その幾重に渡る大蛇を光山は捌く。
その攻撃は実際、避けきれないモノだ。だが、光山はそれを難無く回避していく。
「くっ!まだまだ!!」
さらに大蛇の数が多くなった。地面から這い出る土色の大蛇。だが、それは舞踊。光山はその攻撃を紙一重でかわしていく。
「!?」
だが、光山は地面にあった小石を踏んでつまづいてしまう。
もちろん、その瞬間をグレンは見逃さなかった。
「死ねぇっ!!」
その一瞬の隙を大蛇が光山の左の胸めがけて飛んでくる。
「ぐっ」
踏ん張った声が光山の口から発せられる。
そう、その腕には赤い鮮血が流れ始める。心臓を狙った凶刃を腕でかばったのだ。
「光山ッ!!」
と、緩矢が心配そうな声で駆け寄るが
「寄るなッ!!」
その罵声に緩矢は驚いて立ち止まったが、唇を締めて覚悟の意で駆け寄る。
「寄るなと言っている!!!」
だが、その言葉もむなしく緩矢は駆け寄ってきた。だが、グレンもその新たな隙を見逃さない。
新たな大蛇が光山を襲う。しかし、それだけではない緩矢に対しても他の大蛇は襲い来る。
そこで、初めて光山は剣を抜いた。
「!?」
グレンも緩矢も驚いていた。
そこには暴れ狂っていた全ての大蛇の首が切り落とされている。
「お得意の翔空蓮閃流か?」
光山はグレンに背を向けて右手に持った剣を伸ばしていた。その剣の刀身はまるで水晶の用に美しく妖艶で生き血をすする魔剣のようにも見えた。
「!?」
緩矢はグレンの一言にびくんと体を震わせる。
「‥‥‥最初だ。」
「なに?」
光山がそう言って、聞き返すグレン。光山はグレンの方に向き、剣をおろす。
「最初は貴様の力量をはかるために少し全力を出した。だが、貴様のその『Art(アート)』の使い方はままならない。貴様の力量など一目瞭然だ。」
光山が『Art』と言ったのは『Artifact』の略称である。それ階級別に略して『AArt(エーアート)』『BArt(ビーアート)』などと略称される。
そう言って一歩ずつグレンに足を踏み出す。
「‥‥‥グレンと、言ったか。貴様にアートの使い方を教えてやる。」
すると、光山の水晶のような魔剣に大気が集まっていく。
「何!?」
光山の魔剣に吸い寄せられる大気。徐々にその大気の集まる速度が上昇していく。
そして、速度はまさに台風と言ったところか、かなりの風が魔剣に吸い寄せられていく。
「風の剣よ。『Wind.Force(風の万軍)』。裂け!我が望み思うままに!!」
光山は剣を一振りする。グレンはその風の剣の威力を想像してか身をかがめるが‥‥‥。
「‥‥‥。」
何も起こらなかった。むしろ、起こさなかったというのが正しいのだろう。一振りした魔剣はそのあるべき場所に帰るように大気を静かに返していく。
「これが力の差だ。」
光山はそう言ってグレンの横を通り過ぎる。
「覚えていろ。」
グレンは煮えたぎった声で言う。
「覚えていろ!貴様は!絶対に許さん!」
グレンのその怨念じみた声を背に光山は自宅になる場所へ向かって行った。それをグレンと光山を交互に見る緩矢だったが、町並みに消える光山を見てあわてて追っていく。
光山が家に到着した頃は既に夜になっていた。
「アレで良かったの?」
緩矢はグレンの言葉を考え光山に聞くが
「別に構わない。」
素っ気ない返事で言い返す。
「嫌いなモノとかあるか?」
光山はキッチンに立って前日に置いておいた買い物袋を漁り始める。
「いや、特にないよ。」
そう言われ光山はコクンとうなずき。コートの下からナイフを取り出す。そして、自分の体の一部のようにナイフをキッチンの上で踊らせる。
「トタタタタタタタタッ」
と、気持ちのいい音を走らせ野菜を切っていく。
「‥‥‥うわぁ。」
緩矢は眼を輝かせて光山の包丁、もとい、ナイフ捌きを見ている。
「少し、時間がかかる。適当に時間を潰していろ。」
だが、その言葉は酷だった。初日に来た家だ。何も用意されていないのは言うまでもない。
「‥‥‥どうしろと?」
「なら、そこのソファで寝ていろ。」
そう言って光山は火の出る石‥‥‥EArtを適当なところに置き三脚を置きその上に水を入れた鍋をのせる。
「Arch(燭台)!」
と言うと、EArtは火を発し始める。
「ルーン石持ってるんだ。高くなかった?」
「作ったモノだ。日持ちはしないが効果さえあれば、何度でも使い回しはできる。」
ルーン石とは魔法の力を宿らせた道具で、地水火風と四大元素を宿らせることができる。そして、光山が今使っているのは火のルーン石である。この火のルーン石は家庭でも使われ、キッチンの火の変わりになっていることが多い。
「ふーん。じゃあ、失われた技術(ミスティックテクニカ)を使うことができるんだ。」
緩矢は一瞬、真面目な瞳で光山を貫こうとしたが
「さぁな。」
光山はなんにも暮れずに軽く流してしまう。
「あなたって本当に無愛想よね?」
「褒め言葉、光栄に仕る」
光山は緩矢の皮肉を難なく流す。
「俺のことは詮索するな。やりたければ、相応の現実との覚悟を決めておくといい。」
そう言って光山は夕食を作り終えて皿を緩矢の前に出す。
「シチューだ!!」
「‥‥‥味の保証はしない。」
そう言って光山は黙々と椅子に座って
「いただきます。」
そう言ってから手を合わせてシチューにお辞儀をして、目の前にある食べ物を上品に食べていく。
「‥‥‥おいしい。」
「褒め言葉、光栄に仕る。」
光山はなんの気なしに言ってしまう。
「ぐっ、あなたって‥‥‥人は。」
「ごちそうさま」
そう言って立ち上がって食器を洗い始める。そうは言っても皿は一つだけである。
「じゃあ、俺は自室にいる。階段を上がって奥の部屋だ。寝ているから用があるなら明日にしてくれ。」
光山の素っ気ない態度に
「ちょっと待ってよ。」
緩矢は声を掛けて光山を制止する。
「‥‥‥なんだ?」
「気に入らないわ。その態度‥‥‥。」
緩矢の半ば怒りのこもった瞳
「‥‥‥これが地なのでな。」
その言葉が嘘だったのだろうか。光山の半分苦しんだ言葉に
「嘘っ!なら、なぜ、さっきから素っ気ない態度を取るの。」
緩矢は立ち上がって光山に怒鳴る。
「これが俺の地だ。他に文句を言われようが変えられようのない事実だ。文句があるなら、自分の願う神にでも祈っているんだな。」
光山はそう言って身を返す。そして、階段に足を踏み出そうとしたときに
「Fire(炎よ!!)」
緩矢の方から光山の方へと火炎弾が放たれる。
「手荒いご挨拶だ。」
光山は緩矢が放った火炎弾をその場で受け止めている。その制止している炎はごうごうと燃えさかっているが周囲に火は伝わっていない。
「魔術師?」
緩矢は驚いて言うが、光山の冷めた表情は何にも影響を与えていない。物理的には‥‥‥。
「なぜ、あなたは私を一人にするの!?」
「あなたは‥‥‥と、言われてもな。俺ははっきり初対面だ。と、しか言いようがない。」
光山はそう言って炎を消して二階へ上がろうとする。
「Crimson(紅蓮よ)!」
さらに赤い炎が光山を襲うが
「Blue(蒼きモノ)!」
そう言うと光山の手のひらから氷塊が放たれる。すると緩矢から放たれた赤い炎と相殺される。
「なっ!相対属性を!!」
そう、氷は炎に弱い。だが、その常識を覆すように光山は炎を氷でねじ伏せる。
「そちらが俺に対してどうこう言うのは構わない。だが、手出しだけはしないで貰おう。」
光山はそう言って二階へ消えていく。
光山が自室に入ってから、ベッドの上に寝転がり天井を見つめていた。
「所詮、一瞬の別れだ。干渉されては‥‥‥困る。」
光山は自分の経験から言っているのだろう。そう言って哀愁を漂わせながら目を閉じた。
「別れなんて悲しいモノさ‥‥‥別れなど‥‥‥。」
そう震えた声で言って光山は眠りに落ちていった。
光山は朝早く目を覚ました。そして、黒いコートを羽織り始める。だが、季節は夏というのに暑苦しい格好だ。
「よう。家見つかったんなら連絡くれればいいものを。」
「どうせ、言わなくても突き止めてるだろ。」
そこには椅子に座って酒を飲んではっちゃけている川島がいた。
「んで、学校はどうだい?」
「保護者面するな。監視者が‥‥‥。」
「つれないねぇ。」
「これが地だ。」
光山の素っ気ない態度にわかってか川島は酒瓶を口に含む。
「変わらないねぇ。」
川島は酒瓶をことんと置く。対照的に光山は食事を作り始める。
「‥‥‥Fire。」
と火のルーン石に魔力を注ぐ。
「けど、初日から喧嘩かい?そこら辺に魔力の残りカスが残ってる。」
川島は周囲を見てそう言うが、周りに焦げ跡や湿った跡はない。
「知らん。俺の態度が気に入らないとさ‥‥‥。」
光山はそう言って三人分の食事をテーブルに並べる。
「ふーん。それで、いつもより早く起きるんだな。まるで、避けているように‥‥‥。」
川島は不敵な笑みで光山を見る。光山はその言葉に貫くように見るが
「‥‥‥駄目だね〜。君も女の子には優しくしないと。」
「五月蠅い。御託を言うな。」
そう言って光山は食事を終えて食器を水につけて鞄を持つ。中には教材が入っているのだろう。
「いってらっしゃい。学校では優しくしろよ。」
「知るか‥‥‥。」
光山は最後まで素っ気ない態度で家を出て行った。
「で、起きてるんだろ。緩矢ちゃん。」
「え、ええ。」
と、階段から下りてくる緩矢
「全く、あいつの態度にも飽き飽きしちゃうよね。」
川島はへらへらと笑う。
「で、教えて欲しいの。玲奈さんのことを‥‥‥。」
と、緩矢は川島と対する方向の椅子に座る。
「んー。そう言われてもね。今、知ってる事は、光山の持ってるあの紙に書かれた似顔絵が間違っていないと言うこと。そして、その子はまだ生きている。」
川島は自信を持ってその言葉を放った。
「けど、似顔絵でしょう。それなら確証なんてないんじゃない?」
緩矢の言うことはもっともだ。あくまでそれは似顔絵だ。その顔になっているとは限らない。
「とあるツテでね。その似顔絵と光山の妹の顔は一致したんだ。」
川島は何の気なしにスラッと言う。
「‥‥‥なら、間違いない。」
「え?」
緩矢がボソリと言った一言に川島は目の色を変えて緩矢を見る。
「昨日、出歩いていたのは知っているわね。」
「うん。街を探検してくるって出て行ったね。」
「それで、適当に探索してたんだけど、裏路地で迷ってたらその似顔絵と同じ人を見かけたの。ちょっと、追ってみたんだけど、途中で見失ってね。すると、どう?大男が私の前に現れてこう言ったのよ。『この女に何か用か?』って!その時はっきり見たのよ。その玲奈さんの顔を悪いけど、見間違いとかなんかじゃない!!」
そう断言する緩矢に川島は
「‥‥‥なら、今日、光山が帰ってきてから言ってみるといい。」
川島はそう言って立ちあがる。
「どうしたの?」
「ちょっと、用事だよ。俺は顔が広いんでね。いろいろ顔を出しておかないと行けない人間がたくさんいる。」
と川島はふらふらと玄関に向かう。
一方、光山は
「では、今日は能力測定を行う。」
体育らしい授業を受けていた。始まるのは魔力の測定らしく。自分の得意な魔法を木偶に当てると言う趣向らしい。だが、その木偶は魔法で細工されており、いくら強い力を与えても何も変化がないらしい。
生徒の中でもその木偶を破壊しようと、全力を出す人間もいるが、破壊出来る生徒は誰一人いない。
「では、光山 陣、前へ。」
「了解いたしました。」
光山は一歩前に出て先生の方に向いて
「質問が二点あるのですが‥‥‥。」
「なんだ?」
「あの対象を破壊してしまう場合がありますがよろしいでしょうか?」
光山の質問にどっと周囲が笑う。
「はっはっは、おもしろい冗談を言うな。もし破壊出来たなら、最大の成績をあげようじゃないか。」
「わかりました。では、次の質問です。あの対象に補助魔法を掛けるというのは評価の対象になりますか?」
光山の二度目の質問に再び周囲は笑い始めるが
「補助魔法か‥‥‥今までの前例にないな。よかろう、この補助魔法は場合によってはカウントしよう。」
「わかりました‥‥‥あ、すいません。どうでもいいですが、もう一つあります。」
「はぁ、なんだ?」
先生は既に諦めて表情で光山の質問を促させる。
「‥‥‥八詠唱魔法(エイトカウントスペル)以上の使用は禁じられていますか?」
一般的に冒険者を養育する学校では、八詠唱魔法以上の魔法術は禁止されている。たいていの八詠唱以上の魔法は強力な力を誇っており、それを使うことは基本的に禁じられている。
「‥‥‥禁止だな。これは全大陸共通だ。」
「了解いたしました。では、3年C組が一人、光山 陣!参る!」
そう言うと光山は目を閉じて、空になにやら紋を描き始める。
「律の使徒よ。我が念に力を締めて我にかかれ。動の使徒よ。汝が私怨、我が受けよう。主演の幕を上げし、逆しまなる力よ。汝が願う思いを授けよう。故、我に従え、我に請え!今、裁きは汝らの手にある!!」
光山はそう、つぶやきながら開眼する。
「Neutral.Defolt(自然への形態)」
光山がそう、木偶に向かって言い放つと木偶はブルブルと震えて溶け始める。
「うむ、申し分ない。威力だったな。だが、改良の余地はあるか‥‥‥。」
光山はそう言って、生徒の群れに戻る。それを呆然と見守る先生と生徒
「‥‥‥ふむ。まだ、分子の元素が荒い。やはり、短縮詠唱(ショートカット)しないで、精度を高めた短縮詠唱を考えるしかない。水も構成要素も考えないとな‥‥‥。」
と、ぶつぶつと考え始める光山。
「どうしたの?光山くん?」
「さぁ、なんか、構成要素とか空間剥離現象とか、なんかレベルの高いこと言ってるよ。」
二人の女子生徒が光山を珍しいモノ見たさに言う。
「じゃーん!フィルシアちゃんの登場でーす!」
と、二人の女子生徒の間にフィルシアが飛んでくる。
「どうしたの?光山くんを珍妙物みたいに見て‥‥‥。」
「いや、さっきの見た?」
「さっきの?何が?」
と、フィルシアは光山を見るが別に考え込んでいるだけで変化はない。
「いや、魔力測定の時に使われる。オルエン先生の『魔法耐性くん289号』を破壊したのよ。」
「ええッ?!あの魔法耐性くんの289号番って、この二年間、誰一人傷つけることのできなかった木偶人形を!?」
フィルシアは光山と魔法耐性くん289号のあったところを交互に見る。
「やっぱり、彼はひと味違うわね。」
「え?どう違うの?」
「グレン君から一太刀で一本取るし、斬新な属性理論の考え方とか‥‥‥なんか、すごいよ。」
フィルシアの評価の使用は周りも驚いていた。
「珍しいわね。あなたが、人を褒めるなんて‥‥‥。」
一人の女子生徒はフィルシアを物珍しげに言う。
「うーん。そーいや、そーだね。」
フィルシアはうーんと頭をひねらせて考える。
「そういや、その手の情報によると、なんか、翔空蓮閃流を習ってるって‥‥‥。」
「翔空蓮閃流?」
フィルシアは急に険しい顔になって二人を見る。
「あ、あくまでも噂よ!噂!!」
「ええ、わかったわ。」
フィルシアは殺意のこもったような瞳で光山を見る。すると、光山はその気配を察してフィルシアの方を見るが、フィルシアだと知って一瞬、戸惑うが‥‥‥彼も剣士なのだろう。
「「「「!?」」」」
多くの女子生徒達が光山の方に向いた。恐らく、彼女だけに殺意を向けたのだろうが‥‥‥と、思いきや。光山は近くにいた男子生徒に声を掛けて女子生徒達を越えて遠くの方に指を差す。ちなみに、その方向は校舎だ。女子生徒達もつられて見ると
「‥‥‥‥あー!!下着どろぼー!!!」
女子生徒達が一斉に声を上げる。これではもう授業をやっているどころではない。
「やれやれ」
と、女子全員の視線が自分からはずれるのを確認した光山。そして、一人の男子生徒に視線を向けた。
「よう、大丈夫か?代わりにやっといたぜ。」
その人物はグレンだった。あからさまに怪しい言動と行動に光山はあえて黙認する。
「‥‥‥余計な世話だ。」
光山はそう言うと同時にチャイムが鳴る。
その日、光山は放課後に学校の屋上に呼び出される。
「あなた。翔空蓮閃流なんですってね。」
光山の目の前にいるのはフィルシアだった。だが、光山はなぜそこにフィルシアがいると言うことが理解出来ていなかった。
「‥‥‥ふむ。その通りだ。」
光山がおとなしく肯定すると、突然、光山に無数の刃が襲いかかる。
その無数の刃は光山を刺し貫くが
「芸がないな。ただ、刺すだけでは人を殺すことはできない。」
貫いた。フィルシアはそう思っていた。しかし、貫かれたはずの光山はその場で刃を回避していた。
「御託はいらない!あなたが!あなたの流派が!私の両親を!!」
フィルシアの殺気は最大まで上昇しただろうか?その殺気で光山は一度、考え込んで光山は徒手空拳を構える。だが、光山の言葉にフィルシアはびくりと驚く。
「仇はお門違いだ。本願、仇を討ちたいのはオレではなく。その本人なんだろう?」
「そうかもね。けど、翔空連閃流を身に付けている人は周りにいない。」
「なるほど、実力試しというわけか?」
「そうね。そうなるわ。できることなら、他人に迷惑はかけたくない。そう思ってはいるけど、いざ会った時に対応できない状況ではいたくないの。」
フィルシアは地面に刺さった刃を宙に浮かばせる。
「わかった。その相手がどれほどの相手かは知らない。だが、教科書を見せてもらった恩もある。この藁をもすがる状況に手を貸そうじゃないか。」
すると、光山は徒手空拳を解き、剣を引き抜く。
「グレン君の前では剣を構えなかったらしいじゃない?」
「あのような低級な思念を持つ者に真剣は必要ない。」
光山はそう言って、右手に剣を逆手に持ち、後方に構え、左手を前にして手を開く。
「ふぅん。それが本気の構え?」
「さぁ、どうだろうな。新たな構えが見たくば、深層心理を持ち出してでも全力を出すのだな。」
そう言ってフィルシアは左手を天に掲げると無数の刃物が現れて光山に狙いを定める。
「‥‥‥ふむ。読めない武器だ。」
「悪いけど、読んで貰っては困るのよ。我が家の家宝なわけだから。」
自信満々にフィルシアは光山にほくそ笑む
「ふむ。では、期待を外して一つ言わせて貰おうか。」
光山はにやりと笑い。フィルシアを見る。その不敵な笑みにフィルシアは瞬間、不安を覚える。
「AArt『Rainy For Any Edge(無数の刃を振らせるモノ)』」
「な、なぜ!!」
フィルシアはその言葉にびくりと震え光山のその言葉に驚いた。
「俺は世界を渡っている。由縁、知るもの、知らぬもの、知り得たくないもの、知りたくないものを知ることができる。」
光山は一度、構えを解く。
「私も旅学生やろうかしら‥‥‥。」
「ここに定着するなら、つらい旅になるぞ。」
光山はあきれ気味にそう言う。
「さて、この話は置いておいて‥‥‥。」
「ん?」
光山はふと扉の方に首を向ける。フィルシアも不思議そうに問いただしたが、光山は気のせいだと言って納めてしまう。
「さて、始めようか。」
と、光山は先ほどと同じ構えをする。
「Ray(降れ)!!」
フィルシアの言葉と同時に光山の心の臓めがけて飛んでいく。
だが、光山はその間を縫ってフィルシアとの間合いを詰めていく。体を捻らせる。宙に舞う。加速する。停止する。後退する。前進する。まるで、一人でステップを踏んでいるかのように回避をしていく。
「なっ、にぃっ!!」
その光山の動きにフィルシアは驚嘆する。だが、フィルシアは驚嘆をモノともせず刃の動きのパターン、速度を変えて攻撃を始めるが。光山は、また、体を捻らせる。宙に舞う。加速する。停止する。後退する。前進する。そして、さらに、瞬時に消えるという人間離れした動きになってきていた。
「な、なら―――――!!」
言葉を口走った瞬間、フィルシアは不快感に襲われる。だが、何かがおかしいと感じ取った。
「‥‥‥距離が詰まってきていない。」
そうなのだ。光山は前進しては来るモノの、後退すると一気に後退してしまって自分の攻撃の距離には入ってきてない。
「ならば!!」
フィルシアは決意した。突然、刃が動きを止める。そして、その刃が収束し始め
「剣山か。」
そう、華道で使われる剣山が光山の前に立ちふさがっていた。だが、その剣山の大きさはかなりのモノでその剣山が光山を狙って倒れれば間違いなく。そして、寸分違わず串刺しにできるほどの大きさだ。
「何を警戒しているのか知らないけど、これで、終わりにさせて貰います。」
「さて、大技を出したな。」
光山はフィルシアの見えない剣山越しに笑いを放つ。
「翔空蓮閃流奥義伝承者が一人『光山 陣』!今ここに馳せ参ること相仕る!!」
フィルシアは『奥義伝承者』と言う言葉にハッと驚き。この勝敗の行方を覚悟した。
「勝負を諦めて貰っては困るな。」
はと気がつくと、先ほどまで視界内にいた光山の姿は消え去っていた。そして、彼はフィルシアの背後にあるフェンスの上に立っていた。
「確かに、俺は翔空蓮閃流奥義伝承者だ。その肩書きだけで勝負を諦めるならおまえの仇討ちはその程度だったのか?」
「そんな訳あるか!!」
フィルシアは口調も言って変わって激昂した。
「私は両親を殺した。あいつを探す為に、あらゆる悪行に手を出した!そこまでしていたのに仇討ちなど終わらせはしない!」
光山はふと笑い。そのフェンスの上にストンと座って。
「わかった。その仇討ち。できる範囲内で協力しよう。」
光山はフェンスから飛び上がってフィルシアと対峙する。そして、初めて二本目の剣を引き抜いた。右手に逆手の剣、左手に直手の剣。
「翔空蓮閃流奥義伝承者48代目襲名『蒼華』が、お相手いたす。」
剣を構える。片手は逆手に、片手は直手に
「こっからが本番だ。確かに、先ほどの行動は明らかな侮辱だった。なら、今回は本気を出そう。そして、あなたは何を元に生きていく。」
「何をって‥‥‥復讐心を礎に‥‥‥。」
光山はその言葉に満足して
「うむ。上出来だ。では、がんばれよ。俺は帰る。」
光山は構えを解き、剣を収める。そして、手をヒラヒラ振らせて、扉に向かっていく。
「あなたは!どういうつもり!?」
フィルシアの必死で上げる声に光山は
「俺は戦うモノが求めるモノだと言っていただけだ。別に戦いたいとは一言も言っていない。」
光山はそう言って
「後日、聞きたいことが多少ある。では、また、明日学校で会おう。」
フィルシアは一人、屋上でたたずんでいた。そして、校門の方を見渡すと光山が歩いていた。
「あれ?」
だが、歩き方がおかしい。なにかをかばっているようだ。だが、光山の足下を見てフィルシアの顔は青ざめた。
それに気付いたフィルシアは光山の方に駆けつけようと屋上を出ようとするが
「悪いがそれはさせるわけにはいかない。」
「グレン‥‥‥カイムナート」
そう、そこにはグレンが立っていたのだ。
「悪いがここを通るならこいつらを倒してからにしてもらおうか?」
グレンがそう言うとがたいのいい男が扉から二人現れる。
「Rainy For Any Edge!!」
と、叫ぶフィルシア。すると、無数の刃が三人に降り注ぐ。
「Field(領域)!!」
男の一人が言って領地みたいなモノが発生する。すると刃は突然、勢いを無くして地面に伏せる。
「抗魔防壁!?」
さらに、もう一人の男が、投げ槍を構えてフィルシアに投げる。その勢いはまさに豪速。止められるモノはいないだろう。
そして、すでにフィルシアがその槍を避けられない圏内まで追いやられた。
「諦めるな。まだ、手はあるだろう?」
突然、フィルシアの背後から声が聞こえた。
「伏せろ。」
その言葉を聞いたと同時にフィルシアは伏せる。すると、上空からすさまじい空気の渦が通り過ぎた。そして、屋上の扉が粉砕する。
「‥‥‥光山 陣。ただいまを持ってフィルシア・エアフィールドに助太刀しよう。」
光山はフィルシアの背後に立っていた。手に持っているのは弓だ。
「では、くっ!貴様!怪我も関わらず!!」
「悪いが、認めた人間を早々と堕とさせるわけにはいかない。」
光山は突然、剣を矢の代わりにし始める。
「ふ、そんなもの失速して!」
男は笑って言うが、その言葉とは裏腹に男の頬の横を通り過ぎていく。
「ん?なんか言ったか!?」
「いや、何でも‥‥‥。」
「全く。ピンポイントアローもなかなかだな。」
そう言って、弓をぐるんと手の中で一回転するとどこかしらに消えていく。
「では、無限貯蔵の武器を披露しよう。」
光山はそう言って指を鳴らすと、紫色の裂け目が光山の背後に出る。
「‥‥‥Gate of Create(創造の門)」
そう言うと、光山は紫色の裂け目に腕を突っ込む。そして、出てきたのは
「槍‥‥‥いや、斧槍(ハルバード)か」
光山のその手には槍にそのすぐしたに斬と突の機能を兼ね備えた武器を手にしていた。
そして、チャージと言われる溜めを行う。腰を深く落とし、照準を二人の男に合わせる。眼光は髪の毛に隠れているが、確実に二人を狙っている。
「突ッ(トッ)!!」
爆速する。その槍を持った影は二人を狙って飛翔する。しかし、目に見えるような速さではない。まるで、それは弓の本体が壊れる寸前まで引き絞られ、放たれた矢。その一直線の黒と紅を纏った閃光の矢は周りに煙を散らしながら爆速する。
「Field(領域)!!」
障壁を張る。しかし、その閃光には皆無。障壁が構成されるまえに障壁内に入ってくる。
「ああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
先ほどの凄まじい投擲を行った男は再び投擲を行う。ジャストミート、クリティカルヒット、そう言ってもよいタイミングの攻撃だった。だが、それも無意味。その槍が彼に接触する前に、槍の先端は他方へ矛先を変える。
風圧。そう、風圧が矛先を変えたのだ。もちろん、光山にも風圧による空気摩擦があるはずだ。しかし、それをモノともせずに彼は突き進む。
これで、二人の行動は皆無に終わった。
一閃。光山は彼らの背後に立つ。そして、光山はハルバードを紫色の裂け目にしまう。
しかし、彼らにはなんの変化は無い。男二人はぺたぺたと自分の体を確認する。
「んだ。見かけ倒しかよ?」
そう言って振り返る二人の男。まるで形成は逆転したと言わんばかりに満身創痍だ。
「フィルシア、一つ。勉強になっただろう。これが、翔空蓮閃流の技が一つ学ぶことができたな。」
そう言って、二人の間を通り過ぎる。
「これで・・・・・・」
「終わりかよ!?」
しかし、その言葉はあだとなった。光山は片手を挙げて指をパチンとスナップさせる。すると、光山の後を追ってきたのか風が、かなりの勢いで二人に向かって巻き起こる。
「ま、襲ってくるだけ無駄だったな。障壁を構成させても魔力を施した武器でオレを狙っても、な。」
そして、風が止むと、グレンを含む、男達は倒れていた。
「やるわね。あなた」
「だてに日々修練はしていない。」
光山はそう言って
「‥‥‥あはははっ、君っておもしろいね。」
「そうか?知り合いには無愛想すぎると言われるが‥‥‥。」
「うーん。無愛想ってより、ドライって感じね。」
フィルシアは和気藹々と光山の肩をバシバシ叩いて
「‥‥‥うぅ。」
ふらりと倒れ込む光山
「え!ええぇ!?どうしたの!?」
その後、光山は保健室に運ばれていた。
「‥‥‥くそっ!」
起きあがるなり、窓から出て行こうとする光山
「ちょいと待った!!」
突然、襟首を捕まれる。すると、光山は言い声でぐえと言ってぱったり倒れる。
「あちゃー、頸動脈とまっちまったか?」
と、光山の上には白衣を着た男性が一人立っていた。
「ふむ。なかなかの美青年だが、やることはワイルドだな。なかなか、いい筋をしている。うむ。なかなか。」
うんうんと頷く白衣を着た男性。おそらくは保険医だろう。
「食べちゃいたいくらいに‥‥‥‥。」
と、ぞわぞわと腕を伸ばす保険医だが
「!!‥‥‥動くな。動けば、その首、寸分違わず、はねとばす!!」
光山は瞬時に保険医の後ろに回り込んでナイフを首元に当てる。そして、その一言に保険医は
「心臓動いてるよ。」
屁理屈をごねる保険医だが
「了解した。なら、必要最低限以外は動かすな。そして、俺の許容範囲の中で動くと良い。」
そう言うと光山からは見えなかったが保険医はにやりと笑って、光山に右腕でひじ鉄を放つ。
すると、光山のみぞおちに命中し、よろける。
そして、追い打ちに腹部に向かって左からミドルキックを仕掛ける。
だが、光山も正気になってミドルキックを左拳で足の甲を狙う。
「ぐぅっ!」
思わぬ一撃によろける保険医。瞬間、光山は左足を天に上げる。
「体術‥‥‥天降衝。」
地面に刺さるかかと落とし。だが、ただのかかと落としではない。まるで隕石が落ちてきた勢いだ。そのおかげで地面がえぐられている。もちろん、保険医はその一撃を回避していた。
「‥‥‥うっわ。修理費出してね。」
真面目からぬ言葉に光山ははぁとため息をついて
「興が削がれた。金はここに置いておく。」
と札束を机の上に置いて保健室から出て行く。
「あ、冗談冗談!!」
だが、光山はそれを聞かずに出て行った。
そして、光山はSTと呼ばれる支部所に来ていた。
「なんのようだ。」
そこは薄暗い場所で電気が天井の真ん中に一つだけ。他に椅子に座る柄の悪い男。光山には到底に着かない場所であった。
「これを」
光山は受付の人間に身分証明書みたいなモノを見せる。
「‥‥‥了解した!!少々お待ちを!!」
そして、支配人らしい人間が現れる。
「よ、ようこそ、おいでくださいました!!どうぞこちらへ!!」
と、光山は奥に通される。その一部始終やら最初から見ていた人間は何事かという目つきで光山を見ていた。
そして、奥の接客の部屋に連れてこられて
「では、何用のご用件でしょうか?」
「この‥‥‥‥あれ?」
光山はコートの内側を探り始めるが気の抜けた言葉を放つ。
「ちっ、すまない。人捜しを頼もうとしたのだが、用件だけをお願いしたい。」
「はい。わかりました。」
そう言って光山は立ち上がる。
「ただいま。俺、『紅黒の疾風』は『光山 玲奈』と言う人物を捜している。探し出せた場合1000万ルシンを進呈する。」
そう言って光山は紙幣の束をどさりと置く。
「いっ、一千万!?」
「ああ、そうだ。」
光山はそう言ってSTと呼ばれる支部所を出て行った。
「ちっ、どこにやったか。」
光山はそう言いながら商店街に歩いていく。
光山が帰ってきた時間帯は、既に太陽は暮れかかっていた
「‥‥‥おかえり。」
光山は緩矢に言われて驚いた表情で見ている。
「あ、ああ、ただいま。」
緩矢は昨日の表情と違ってにこやかに笑っている。光山も昨日のことを覚えている。それなのに、緩矢の行動に理解出来ずにしどろもどろに対応する。
「ちょっと、話があるんだけどいいかな?」
「ん、ああ。」
緩矢に流されるままにいく光山。そして、対面して椅子に座る。
「‥‥‥あなたに言ったように『情報』を提供したわ。確たるモノではないけど、確実な方向よ。」
「話を聞こうか。少し待ってくれ。茶でも入れよう。コーヒーとお茶がある。どちらがいい?」
と、光山は立ち上がって台所で作業を始める。
「あなたと同じでいいわ。」
「わかった。」
そう言って、数分してから光山はコーヒーを二つ持ってきた。一つを緩矢に、もう一つを自分に
「ねぇー、俺のはー!!」
と、いつの間にテーブルの横に座っている川島がいた
「自分でやれ。」
しかし、光山はその行為を容易く受け流す。
「では、情報の提供を願いたい。別に確たるモノではなくてもいい。」
光山は座るなり、そう言った。
「‥‥‥わかったわ。私が追われていたあの裏路地を知っているわね?」
「ああ、知っている。あそこは『闇夜の巣窟』と言われている場所らしい。俺もつい最近知った。」
「って、滞在して二日よ。早いわね。」
その通りである。この遺跡都市カリウスは広い。崖に囲まれているとはいえ、崖から、中央にそびえ立つ王城を見ることができるのは晴れているときのみ。それほどカリウスは広いのだ。
「‥‥‥まぁ、滞在する以上、事前に情報も仕入れるし、事後も情報を仕入れる。基本だな。」
「ふぅん。で、妹さんを見たのはその『闇夜の巣窟』よ。正確な場所はちょっと、口で言うとこんがらがるから、連れて行って‥‥‥。」
「‥‥‥仕方有るまい。」
そう言って光山は立ち上がる。
「‥‥‥ふむ。」
光山は、そううなずいてから、台所に立ち、指をぱちんと鳴らす。
すると、台所の下の扉がかぱりと自動に開く。だが、そこには本来、鍋やフライパンなどが入っているはずなのだが、武器一式が入っていた。
「人を殺す自信は?」
光山は背を向けながら緩矢に言う。
「え、いや、ないわ。」
「なら、これがいいだろう。」
光山は棒らしきモノを取り出し、テーブルの上に置く。
「‥‥‥これは?」
「川島に向かって振ってみろ。」
緩矢はそう光山に促されて川島に向かって棒を振る。
すると、棒から絵に描いたような星が現れて川島の脳天めがけて直撃する。
「‥‥‥うわぁ!」
緩矢はその星を見てから目を輝かせる。
そして、何度も棒を振る。
「へぐっ!!はぐぅっ!!ぐはぁっ!!もへっ!!むひょっ!!」
かなりひどいありさまに川島は変わっていく。
その後、川島はソファでぐったりとして夜は過ぎた。
そして、光山は椅子に座って、緩矢に
「明後日まで、準備してくれ。」
そう言って、今日の夜は過ぎた。
次の日‥‥‥。
朝のHRが始まった。
「早速だが、みんなに伝えたいことがある。単身の女子は喜べ。私が少し遺跡探索の現場係員にならなくてはいけない日でな。しばらくの間、臨時講師を頼んだ。入ってくれ。」
オルエンは入るなり扉に向かって言う。
「‥‥‥ふむ。」
「どうしたの?光山君?」
「いや、まぁ、ひとには色々あるということだ。」
「何言ってるの?」
と、二人の会話中に入ってきたのは緑色の髪でラフな格好をした好青年だった。顔立ちもよく、女受けしそうな顔である。
「おはようございます。皆さん。明日から臨時講師を務めることになった『風見 蓮』です。よろしくお願いします。」
と、礼儀正しく御辞儀をする風見 蓮。
「前日に一度、来たので知っている人はいるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
そう言って、にやりと歯を光らせる風見。すると女子から黄色い声援が湧く。
「光山 玲奈?」
昼休みに光山とフィルシアは教室で情報交換をしていた。
「俺の妹に当たる人間だ。」
「へぇ、で、それは旅学生をしてる理由なの?」
「ああ、理由の一つだ。学栄管理委員会公認のな」
学栄管理委員会、それは、この大陸全ての学校の管理をする委員会である。その旅学生もこの委員会なしでは運営することはできない。他にいろいろやることはあるのだが、使われるのはここだけなので割愛。
「ふーん。理由の一つねぇ。」
光山はそう頷いてから
「その話は、別だ。それで、聞いたこと無いか?」
「うーん。ちょっと待ってね」
そう言って、フィルシアは鞄から分厚いノートを取り出す。おそらくは、今まで調べ物していた成果なのだろう。
「‥‥‥うーん。やっぱり、光山って言うことは13年前のアレよね?」
フィルシアは目を細めながらノートをのぞき込む。
「ああ、そう言うことになるな。」
「うん。なら、やっぱり、そうね。最新が一週間前だけど、いたという記録はあるわね。出国記録もないし、まだ、この都市にいるという確信を持っていいみたい。」
光山はその言葉を聞いて安堵の息をつく。
「わかった。まぁ、時間的問題は仕方ないだろう。で、情報代だ。」
フィルシアのその言葉に他のノートを取り出す。
「草壁 唐真(くさかべ とうま)と言うのだけど‥‥‥。」
「草壁‥‥‥唐真‥‥‥あいつか。」
光山はその人物の名を聞いて
「知ってるの!?」
「ああ、草壁 唐真。翔空蓮閃流 段位『閃』を持つ者だ。『閃』は武術とかで言う『四段』だな。まぁ、四段の腕を持ってすれば、軽く人をあやめることも可能だろう。そして、草壁はぬきんでて才能の持ち主だが性格に難があって破門された。と、言う話だ。」
光山はそう言って、自分で作った弁当を食べ始める。
「え?会った事は無いの?」
光山はコクンと頷く。
「で、今は?」
フィルシアはノートに光山の言った詳細を事細かく書いていく。
「今俺が知っているのは、暗殺者をしていることぐらいだ。ヤツはST‥‥‥『Stranger(ストレンジャー)』だ。」
「‥‥‥ふーん。で、STと言うことは名指しで暗殺依頼を出すことができる?」
光山はその言葉を聞いて
「ふむ。お膳立てをしてやろうか?」
「いや、いいわ。これ以上、迷惑は掛けられない。」
そう言ってフィルシアは光山の行為を無碍にする。
「わかった。」
だが、光山は起こることもなく、それを了承した。
「だが、これだけは言っておこう。自分を殺させるなどと暗殺者にし向けるなよ。」
そう言って光山は弁当を食べ終えて教室から去っていく。
そして、光山が向かった先は職員室だ。
「お、やっぱり来たね。」
光山は風見の前に来ていた。
「少し、お話があるのですが‥‥‥‥。」
「うん、ちょっと、一息つこうと思ってた所だ。屋上にでも行くか。」
風見がそう誘うと、二人は屋上に行く。光山は二回目なので表情は変えずとも心情では複雑だった。
「全く、幻視も使って、この学校の先生に成り代わるとは‥‥‥。」
「へっへー、考えたろ?」
風見は笑って言う。
「へっへー、じゃねぇよ。イグナイト家の人間が、そこまで陽気だと思わなかったがな。」
光山は頭をかきながら少し、あきれる。
「まぁ、俺だしなぁ。」
風見はのんきにベンチに座りざまに言う。
「うむ。こちらがとやかく言えた問題じゃない。所詮、オルエン先生も知ってるんだろ?」
光山が人を褒めるのは珍しい。風見はほうと感嘆して光山を見る。
「ああ、珍しいね。幻視を破る人は珍しい。」
「全く、同じ仕事をともにした人間に授業を乞うのは面倒だ。」
光山はそう言って風見とは違うベンチに座る。
「‥‥‥まぁ、こっちに情報はない。その代わり言ってはなんだが、俺の授業なら抜け出して情報収集をして構わない。」
「助かる。」
光山はそう言って立ち上がって風見に頭を下げる。
「そう言うなって、俺だって店をほっぽり出してきてるんだ。」
風見の家は武具屋を経営しているが、これと言って目立った商売ではない。自作で作った武器や防具を売り出すオリジナルだ。その自作の武器、防具から一生懸命さが鉄に伝わり、何かの特殊効果が付くときがまれにある。
「尚のことだ。」
「気にするなって、おまえから貰った恩比べれば、安いモノだって‥‥‥。」
「あれは、偶然だ。おまえに感謝されるほどのことはしていない。」
「だが、俺にとっては最大の恩義を感じることさ。」
風見はそう言って屋上の扉まで歩く。
「んじゃ、挨拶。」
風見は振り返って指をぱちんと鳴らす。すると、光山は空を構え、腕を振り切る。すると、風の衝撃が光山を包んだ。
「やっぱり、一撃も与えられないか‥‥‥。」
しかし、その衝撃も空しく光山は霧散させる。
「日々修練は常に続けている。」
「ははっ、それでこそ光山だ。がんばれよ。応援している。」
「ああ、ありがとう。」
光山と風見は過去に縁があった者、このように風見と光山がまともな会話をしているのも過去からの縁によるものだ。
そして、光山は家に帰ってから緩矢を待っていた。
「準備はいいか?」
「あ、え、うん。大丈夫だよ。」
そう、緩矢と光山は闇夜の巣窟に来ていた。もちろん、妹である玲奈を捜すためだ。
「‥‥‥その人が妹さんだったらどうするの?」
「その時による。助けが必要なら、助ける。必要ないなら黙認する。どちらにしろ。俺の現場判断だがな。」
グッと拳を握る光山
「‥‥‥それなりには考えてるならいいわ。」
そして、二人は闇夜の巣窟の中に潜り込んでいった。