そこは宿の一室であった。窓のカーテンから差し込む陽光
 それに目を覚ます青年。上半身が起きあがり、パジャマをあらわにした。
 着替え始める青年。起き始めに言った一言は
「眠い。」
 すると、下の階の方から朝食ができたという男の声が聞こえた。恐らく、亭主の声だろう。
 青年は後片付けをしてカーテンを開けて部屋を出て行った。
 そのカーテンの向こうの空は青い空が冴え渡っていた。
 その空の中には肉眼では見えない星々が見えていた。



Refrain of Star Light

First Mission
旅とは奇知なるモノなり



 宿屋の食堂の片隅でその青年は朝食を口にしていた。
 その容姿は赤い髪に血のように紅い瞳、黒いコートとテーブルに立て掛けた二本の剣であった。そのような中、他の冒険者達が、ざわざわと話をしていた。
「知ってるか?宵迷の山に最近、未確認の魔物が出るって?」
「そうなの?初耳だけど?」
「そりゃあね。街の人たちに話を聞いたんだが、どうやらあの山に仮に言った奴らは帰ってきていないそうだ。」
 そして、青年は食事を終えて、食器をカウンターに持って行く。
「ごちそうさま。」
 そう言って、青年はチェックインを終わらせた。
 青年は手に持っていた剣を腰のソードホルダーに引っ掛ける。
 すると、黒い影が青年を覆った。
「貴様が紅黒の疾風か?」
 そこにいたのは大の男が4人ほど立っていた。
「‥‥‥さぁ?」
 青年は首をかしげて、返答する。
「そうか‥‥‥でも、紅黒の疾風と呼ばれているんだ。その風貌で間違えるわけ無いだろう?」
 男は拳を振り上げ、青年に振り下ろした。その剛拳はその青年の横や幅を上回る面積であった。いわば、巨漢という者だろう。
「へへっ!最年少でSランクStranger(ストレンジャー)と、言うから、楽しみにしていたのだが、これでは期待はずれだな?」
「それもそうだな。んじゃ、みんなに見せびらかせてやろうぜ!!」
 そう言って、拳を戻す男だが、そこには影も形もなく拳の跡だけが残っていた。それに悪寒を覚えながらも男達は周囲を見渡す。
 するとどうだろうか。その男達の背後でスタスタと歩く音が遠のいていった。
「逃がすかよっ!」
 他の男が懐から銃を引き抜いて引き金を引こうとするが、青年はコートの裏からナイフを瞬時に抜き、男の持っている銃を空で刺す。
 刹那、ナイフの刀身、全体から赤い閃光がはしり銃を貫いた。
「なっ!銃が!?」
 銃は解けてしまっている。だが、高温の熱に当たったわけではない。瞬間で熱せられ、瞬間で常温まで達したと言うことしか考えられない。
 呆然とする男達を放置し、青年は冒険者が噂していた『宵迷の山』へ向かっていた。



 青年はその山に到着した。その『宵迷の山』は名前のごとく『宵闇になれば迷ってしまう』のように山全体は森で覆われていた。
 だが、獣道ではなく、きちんとした道が舗装されていた。
 そして、青年は道なりの道を歩いていった。
「止まれ!命が欲しくば、身ぐるみ、荷物を置いてこの場から去れ!!」
 すると、木陰から、フードをかぶり、ローブで身を隠し、片手にナイフを持った追いはぎが現れた。
 だが、そのフードのせいで顔がよく見えない。
 しかし、青年はその殺気も気にせずに
「いやだ。却下。断る。不採用。無理。諦めろ。」
 その青年は無表情で白いローブを着た人間に言う。
「命が惜しくないのか?」
 ナイフを突きつけ質問する追いはぎ
「惜しい。」
 それを、即答する青年。
「ならば、身ぐるみと荷物を置いていけ!!」
「嫌だ。」
 命令をしても、言うことを聞かない青年に
「死んでも後悔しないで!!」
 襲いかかる追いはぎ
 だが、青年はその追いはぎの勢いを利用して、横に避けて足を引っかける。
「きゃぁっ!!」
「きゃ・・・・ぁ?」
 青年は青ざめた顔して、追いはぎを見る。
 そこには、黒瞳黒髪(こくとうこくはつ)のロングヘアーの女性が腰をさすりながら座っていた。おそらくは、正装をしていれば、どこかの令嬢と間違えること、この上ない。
「いたたたた・・・。」
 青年は青ざめた顔で後ずさりする。
「気を取り直してっと!!」
 女性は立ち上がってナイフを青年に向ける。
「!?」
 青年はさらに後ろに下がる。
「どうした?」
 女性の強気な発言だが、青年は青ざめた顔で女性を見ている。
「あう………。」
 その青年のあからさまな態度に
「ちょっと!話を聞いてるの‥‥‥って、フードはずれてる。やばっ。」
 フードをかぶり直すも、もはや、遅し。青年の動揺はいまだ、終わっていない。
「わ、わるいが、先を急いでるのでな!し、失礼する!!」
 今日始めて彼ははっきりとした言葉を口にした。そして、早足でその場を去ろうとするが
「待ちなさい!!」
 と、青年の肩をつかんだ。
 すると、まるで錆び付いたロボットみたいに首を女性の方に向けて
「あ、あ、あああ〜・・・・・。」
 と言って、倒れてしまった。
「‥‥‥おーい。だいじょうぶー?」
 今、倒れた青年は『光山 陣』と言う。無愛想で根は優しいのだが、素直じゃない。女アレルギー持ちで純な剣士である。


 光山が眼をさますと、どこかの家の一室であった。
「ここ、どこだ?」
 どうやら、縛り付けられているらしい。窓を見れば、空が赤くなっている。どうやら、夕方になってしまったようである。
「どうやら、目が覚めたようね。」
 その一室には先ほどの女性が立っていた。
「うぷっ。」
 まるっきり、光山は真上から見て、女性の下着が視界に入り、鼻血を流す。
「うわっ!きったないわね!!」
 だが、光山は、地に伏している。
「この子、ホントにウブね。」
 そして、数分後
「で、居心地は?」
 女性はベッドの上で足を組んで光山を見下ろしている。
「最悪だ。」
 光山は縛り付けた縄を力で破ろうとするが、いっこうに動く様子はない。
「無理よ。それは、私が魔力で編んだ縄よ。切れるわけないじゃない?」
 女性は笑って卑下するが
「‥‥‥よ‥‥‥解‥‥‥‥せ‥‥‥よ。」
 女性は、小声で唱える。呪文を察知して、一瞬で光山の喉元に向けてナイフを突き出そうとした。
 だが、少し遅かった。光山は縄を破り、ナイフの刃を手で受け止めて、ベッドに蹴り飛ばす。
 瞬間に、首元にナイフを突きつけられる女性。
「あなたって‥‥‥。」
「ん?」
「意外と、大胆なのね。」
 頬を赤らめて女性は光山を見た。光山は自分の手の位置を確認して
「あ、あうあうあうあ〜!!」
 その場で、ばったりと倒れてしまう。
「わっ!ちょっ!重いって!!ねぇっ!聞こえてるの!?」
「‥‥‥‥あうあうあー。」
 そう言って光山の意識は消えていった。



 気付けば、夕日も無くなる頃であった。
 そこは小さな小屋で部屋も一つしかない。だが、住んでいるという雰囲気はなく。むしろ、あえて無断借用しているような手入れされていない小屋であった。おかげで周りにはホコリがたまっている。
 女性は、夕食の準備をしていた。そこに聞こえたノック音。
「はーい。」
 扉を開けると、二倍はある大男が立っていた。
「‥‥‥ここに赤い髪で黒服のにーちゃんが来なかったか?」
「‥‥‥いや、来てませんけど。」
 あからさまな嘘。女は追いはぎ、簡単に獲物は逃したくないのが心情だろう。
「そうか。なら、確認させてくれや。」
 そう言って、中に入ろうとする男。
「なっ、女の部屋に勝手にはいるつもり!?」
「別に、確認したいだけだ。それとも、隠しているのか?」
「そう言うわけじゃないけど‥‥‥。」
 焦りを隠せない女性。もちろん、それを男は読み取っている。男のほうが上手だ。
「入らせろつってんだろ!!」
 もう一人の男が、女性の腹部を殴り飛ばす。
「かはっ!!」
 その一撃に空気を全て吐き出し、腹部を押さえてよろめく女性
「探せ。」

 光山が目を覚ますと、ぼろぼろになった女性と数人の男がいた。
「や、いやっ!近寄らないで!!」
「へへっ、上物じゃねぇか?」
 光山は、その昏睡からすぐに覚醒した。
「こんばんはとでも言っておこうか?」
「え?」
 光山は立ち上がっていた。武器こそ無いが、その眼の殺気は人を殺せるほどの勢いだった。
「‥‥‥ちっ、目覚めやがったか。全員、やっちまえ!!」
 襲いかかる男達だが、光山は手のひらから光る球体を発生させる。
「剣となれ、我が怒り糧に猛る刃となれ!!」
 その光る球体は瞬時に剣へ形成した。
「しねぇぇぇぇ!!!」
 男の一撃が光山を襲おうとしたが
「愚か。」
 光山の剣はまるで独りでに踊るかのように奔った。
「関係のない人間に手を出した‥‥‥罪だ。身をもって受けろ。」
 一間を置いて男達の体から血が吹き出た。
「ただ、おまえのいる存在すら許せない。」
 残ったのは指示した男一人だけ。もちろん、恐怖におののいている。無理もない。一振りの剣捌きで5、6人の命が失われたのだから
「た、助けてくれ!で、出来心なんだ!!そうだよ。俺はこいつらに脅されてやったことなんだ!!」
 光山は冷酷な笑顔で
「ならば、指示できる立場ではないだろう?」
 すると、光山は咆吼する。
「あ、ああああああああっ!!」
 光山の背には黒い天使の羽根が現れる。
「決して、貴様を許さない!!」
「ちぃっ!!先生!お願いします!!」
 その一言で玄関から一人の男が現れる。その風貌は浮浪モノと言ったところか、ボサボサになった白髪混じりの髪に所々ぼろぼろになった服を纏っている。しかし、白髪混じりの髪とは裏腹に顔は若い。
「‥‥‥あ。」
「あ。」
 光山と男は声を上げて止まった。
「‥‥‥おまえが敵なら、俺は全力を尽くすぞ。」
 光山は光る球体を形成した剣を消滅させ、壁に立て掛けた剣を取った。
「いや、おまえに勝てる自信ないし。ワリィけど、この契約は無効だ。勝てない相手に勝負を挑むほど無粋じゃないんでねぇ〜。」
 男はヒラヒラと手を振る。
「や、約束が違う!!」
 おびえた男は必死な表情で男にすがる。
「けど、俺も死にたくない。だから、諦めな。」
「興が削がれた。逃げるなら勝手に逃げろ。」
 そう言って光山は剣を納める。すると、男は窓から必死に逃げ出した。
「全く、そう言えば、俺を追っていたんだな。」
「ってか、俺は君の監視下にいないといけないだろ?」
 彼の者は『川島 昂一(かわしま こういち)』と言う。
「知るか。俺は生きたいままに生きる。」
 そう言って、光山は女性の方を見て
「女、大丈夫か?」
 光山はそう言うだけで、何もしない。
「だめだめ!光山。こう言うのは順序をおわないと‥‥‥。」
 そう言って川島は女性に近づいて。
「お嬢さん。怪我はないですか?」
 川島は薔薇の花を手品なのか、手から出して言う。
「‥‥‥ちょっと!光山とか言ったわね!!」
 川島を押しのけて立ち上がって光山に指を差して
「私には『緩矢 詩穂(ゆるや しほ)』って名前があるの!勝手に『女』なんて、安易な名前を言わないでくれる!?」
 憤激する緩矢と名乗る女性に光山は少し怯えて
「し、知るかよ。名前を知らない以上、どう呼ぼうが俺の勝手だ。」
 言っていることは強気だが、態度は弱々しい。
「なんだ、まだ治ってないのか?」
「るっせぇな!治ろうが、治らなかろうが、俺の勝手だろう!」
 光山は激昂して川島にナイフを投げる。
「はいはい。おまえの言いたいことはわかるが、その女アレルギーをどうにかしろよ。」
 しかし、そのナイフを首を曲げるだけで回避する川島
「女アレルギーじゃねぇ!女が苦手なだけだ!!」
 そう光山は断言するが、
『『それをアレルギーっていうんじゃないの?』じゃないか?』
 と、思う二人である。
「‥‥‥んで、聞きたいことがあるんだけど?」
 少し静寂な時間を遮り緩矢が口を開く。
「なんだ?手短にすませてくれ。」
 光山は面倒くさそうに緩矢を見る。
「その背中のは?」
 緩矢が指さしたのは光山の背中につくモノ
「かっ、飾りだ!」
 かろうじてごまかそうとする光山だが
「けど、飾りだったら、あなたの肩重くない?」
「そっ、そんなの俺の勝手だろ!?」
 光山は顔を引きつらせながら、納得させようとするが緩矢は近づいて光山の羽根にさわった。
「はうっ!」
 びくんと光山の体が震えた。
「やっぱり。あなた、天使でしょ?でも禁忌を犯してるから堕天使の?鳥人族には黒い翼を持った人はいないし、ましてや、4枚の翼って時点でありえないからね。」
 緩矢はおもしろそうに光山の顔を見て言おうとするが、当の光山は玄関の陰に隠れている。
「そ、そんなに怖がらなくていいわよ。」
 少し焦る緩矢。あまりにも異常な光山の怯えように少し、慈悲さえ湧いてくる。
「た、たたたた確かに俺はだ、堕天使だよ!確証はないがな!それの何が悪い!?」
 びくびくしながら光山は緩矢に強きっぽそうな言葉を吐くが‥‥‥。
「いや、悪いって訳じゃないんだけど‥‥‥。」
 既に和んでしまっている緩矢だった。
「じゃ、じゃあ、俺は先を急いでいるんでな!」
「待ちなさいよ!!」
 その一喝に光山は制止する。
「なっ、なんだよ?そんな、俺は何にも持ってないぞ!金だってない!」
「もういいわよ。そんなこと‥‥‥。」
 緩矢は鼻でため息をつき。
「ひとつ、ふたつ、言いたいことがあるわ。」
「な、なんだよ?」
 光山はびくびくとしながら緩矢を警戒する
「助けてくれてありがとう。」
 真摯な瞳で緩矢は光山に言う。その言葉に光山はドキッとしたが
「き、気にする事じゃない!俺が勝手にやったことだ!!」
 そう断言するが
「あなたはこう言ったじゃない?『関係のない人間に手を出した』って、普通なら放っておいてもいいのに、なんで、あんな事をしたの?」
「だ、だから!言っただろ、俺が勝手にやったことだと!!」
 動揺する光山に緩矢は笑顔で言う。
「それでも、ありがとう。」
「うっ。」
 思わずたじろぐ光山
「別に気にする事じゃないさ。こいつ、素直じゃねぇから。」
「るっさいっ!貴様は黙ってろ!!」
 と、川島を蹴り飛ばす光山。
「ぐっはぁっ!!」
 みぞおちを押さえ込む川島。
「うっわ。いたそー。」
 川島のもがき苦しみ姿に緩矢は苦笑する。
「で、最後に一つはなんだ?」
「私も旅に連れて行って!!」
 光山は一度硬直してから
「それは、言いたいことではなくて。願い事ではないのか?」
 一度、沈黙してから何度もうなずきながら
「気のせいよ。」
 顔を背けて鳴らない口笛を吹く緩矢
「さらりと流すな!!」
 思わず突っ込みをいれる光山



 光山は壁に寄りかかって腕を組んで立っていた。
 川島は薔薇の花を空に添えながら固まっていた。
 緩矢は木の椅子に逆から座って光山を見ていた。
「で、あの人は?」
「んー、やはり、簡単に流されたのがショックだったんじゃないか?」
 光山は川島に見向きもせずに言う。
「だけど、さっき、あなたに蹴られたじゃない?」
「‥‥‥形状記憶なんだ。」
 苦し紛れのいいわけをする光山。
「無茶な!」
 そう言って緩矢は突っ込む。
「話が脱線してる。で、連れて行って欲しいと言われても、俺はこの山を越えて、その先にある街に転校するだけだ。」
「って、転校って!何歳よ!?」
 バッと立ち上がって光山に指を差す緩矢に、光山はびくりと反応して彼女を見る。
「指を差すな。失礼な。これでも18だ。」
「老けてるわね。」
 素直な一言に光山の背中に重い矢印が刺さる。図星と言う奴だ。
「余計な世話だ。」
 光山はそう言って反対側に立て掛けてある二本の剣を、手を引くだけで呼び寄せる。
「魔術?」
「いや、手品だ。」
「それって、魔術じゃないの?」
 光山はそう言われ手を挙げて、手首をおろすと、二本の剣はふらふらと宙を踊っている。
「え?え?」
「糸だ。」
 光山の手には何もなかったが、フィンガーレスグローブ‥‥‥指先のない手袋の先っぽに糸がついていた。
「まぁ、魔術の効果もいれて作っているがな。」
 光山がいずれかの指一本を動かすとそれに応じて目的の剣が対象の手袋の部分に繋がる。そして、宙にぶら下がった剣が踊る。そして、光山が手首をスナップすると剣が彼の手に収まる。
「あまり、使えないから、普段から使わないがな。って、また、脱線している。まぁ、転校するだけだから、あまり、深い旅はないぞ。まして、おまえを養っているほど、金はない。」
 光山はそう言って背を向けて家を出て行く。
「‥‥‥なら、あなたの名を出して本性を教えるわよ。」
「かまわないが‥‥‥別に偽名を使えばいい。STは信用ならんから辞めて自由傭兵(フリーランス)でもやるがな。」
 光山はそう言うと本当に家を出て行った。
「だから、私を連れて行きなさいと言うのに!!」
 緩矢は光山を追って外に出る。
「いやだ。養うほどの金がないと言ったはずだ。」
 光山は半眼でにらみつける。決して殺意を持った表情ではなく。これ以上、面倒を見きれないといった表情だ。
「なら、ついて行く!『嫌』って言っても!!」
 強情な態度に光山は
「言葉が過ぎたな。」
 光山は剣を抜き、緩矢の足下寸前に剣圧を落とす。すると、緩矢の足下の地面にえぐれたような痕がある。
「‥‥‥残念だけど、小さい頃から、こういう脅しには慣れてるの。」
「そうか。なら、あんたが追いつけないぐらいの速度を出せばいいんだな。」
 光山はそう言って全力を出して走り出した。それは森の中というのもあるが、すぐに姿が見えなくなった。
「ふっふーん。残念だけど、私も魔法術師なのよねー。」
 すると、緩矢は魔方陣を空中に展開する。
「げっ、はめられた。」
 緩矢が見た視界では光山は歩いていた。さほど、遠い距離を走っているわけではないらしい。先ほどの小道を歩いている。
「‥‥‥上等じゃないの!!」
 緩矢は魔法陣の展開を納め、光山の後を追う

 光山もその異変に気付いていた。
「はた面倒だな。」
 光山はすぐに彼女の気配に気づいていた。だが、それを拒否するように逃げることはなかった。
「はぁっはぁっ!やっと、追いついた!!」
 肩で息をしてその場で止まる緩矢をよそに、光山は気にせず、歩を進める。
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
「お嬢さん?もし、よろしければ、私の背をお貸ししましょうか?」
 と、いつの間にか緩矢の横に置いていかれた川島がバラの花を持って立っていた。
「いや、大丈夫。」
 あっさりと断られる川島に緩矢は光山の後を追おうと歩を進める。
「あれ?」
 しかし、光山の姿は無かった。小道は一直線の道、だが、見失うのはおかしい。しかし、考えられる部分が一つある。なぜか?この小道を囲うのは木々だ。なら、その道を逸れてもおかしくない。
「逃がさないんだから!!」
 しかし、その様な考慮をせずに、そう言って緩矢は重くなった足を上げて走り出す。
「‥‥‥いいのかい?」
 川島はふと真剣な表情で緩矢を見ながら虚空に問いかける。
「気になるなら、追えばいい。俺がおまえの色恋に手を貸すつもりはない。」
 すると、その虚空からの返答。
「それはどっちのことだかね。」
 そう言って、川島は走って緩矢を追いかける。
 そして、光山は木陰から現れる。
「さて、追走する輩とでも言っておこうか。迎撃の時間だ。」
 そう言うと光山は彼女たちが走って言った方向とは逆の方向を向く。
「‥‥‥我紡ぐは眠りし槍。」
 光山の呪文めいた言葉に虚無から槍が召還される。
「汝、討たれるは征伐の剣。」
 すると、鞘から剣を引き抜く。しかし、先ほど抜いた感覚とは違い。何かもやのような物を帯びている。
 そして、現れたのは先ほどの荒れくれ者たちと見もしれぬ人間たち。そして、その数は一つ街の集団ぐらいの人数はある。
「そうか。近いんだな。そして、物語も始まるといった言葉も頷ける。」
 しかし、彼らの瞳には生気が感じられない。
「ま、あの街から違和感はすでにあったんだがね。」
「‥‥‥。」
 光山は剣を正眼に、槍を肩に掛ける。腰を落として構える。
「『紅黒の疾風』が剣士‥‥‥常葉 刹那!参る!」
 常葉 刹那というのは光山が名乗る偽名。
「‥‥‥。」
 光山の姿が疾走する。一閃。そして、また一閃。しかし、先ほどのような殺意が混ざった凶刃ではない。むしろ、相手を生かすために振る刃。凶刃にないにせよ。確実に再起不能にさせるほどの一撃。骨を折り、命を生かす。
「‥‥‥。」
 無言で人を壊す光山に、一つの拍手が彼の剣を止めた。
「これ以上は街の人に怪しまれます。どうでしょう?ここで投降するのは?」
 そこには光山に似たような色の服を着た男。黒いケープに黒い服の男。
「悪くない相談だ。」
 光山は笑って言う。
「そう言って構えるあなたに心情を疑うのは私だけでしょうか?」
「もちろん。それは正常な反応だ。」
 光山の視線は殺意。先ほどの人間たちに対するほどの戦意ではない。殺す意志、純粋な殺意。その槍のような視線で男を射抜く。しかし、その視線だけで気圧されるようではない。
「では、なっ!!」
 そう言って光山は、一陣の風となる。男は魔術を組み。魔力の固まりが、光山を狙って迎撃するが、光山は失速しない。
「バカな!直撃するつもりか!?」
 しかし、直撃はない。光山の姿が着弾寸前に姿を消す。そして、その魔力の固まりは爆発する。
「!?どこだ!どこへ消えた!?」
「高みの見物とはおいそれと笑えるな。」
 はと、気づき上空を見る。そして、その方向から天高く点在する光山の姿。
「だが、そんな高い上空からなど狙ってくれと言っているものだぞ!!」
 そして、男は再び、魔力の弾を無数に放つ。
「空転色彩」
 そう小さく口走る。すると、その言葉と同時に男はふと振り返る。
「北の戦争。5年前かな。その時に1人の兵が5000人の兵を討ち伏せた。」
 淡々と光山は言葉を継げる。
「な、貴様?」
 光山の槍は不気味に光る。
「その兵はとあることに怒りを覚えた。それはなぜか?禁術まで使い一個師団を壊滅させた。そして、その場所に植物は生えることがその5年から無い。そして、無闇な武力による鎮圧に怒りを覚えた。最初、その兵は一つの前線基地を崩壊させた。1日………いや、3時間でな。」
 その言葉が綴られていく内に男の表情は徐々に青ざめていく。
「まさか、貴様が『血の‥‥‥‥‥。」
「お喋りがすぎたようだ。」
 その瞬間、光山は男の首をはねた。

 一方、緩矢たちは山頂で息をうずめていた。
「おなかすいたよー。」
「はっはっは、お嬢さん。なら、私の腕の肉でも食らいなさい。」
 そう言って腕を差し出す川島だが
「いや、人肉なんて趣味の悪い。」
「ですよねー。」
「っても、本当に光山は先にいるのかしらね。」
 そう言って緩矢は先の道を見る。そして、はぁとため息とつくと緩矢たちが走ってきた方向から足音がした。
「‥‥‥!?」
 光山の姿だ。しかし、先ほどと何か雰囲気が違う。
「なんか、滴ってない?ついでに臭う。」
「‥‥‥ま、仕方ないかぁ。キャリアのない緩矢ちゃんじゃ、あれを光山だと思うよね。」
 そう言うと川島は腕をふるう。すると、袖下から服の袖とは丈の合わない剣が現れる。
「公開させておくよ。僕の剣は『切り裂く君(きみ)』と呼ばれる剣、人の作った最新の魔剣。『ティアーユーズ』とね。」
 すると、川島は剣の柄を強く握る。すると、刃がバラバラと崩れ落ちる。しかし、崩れ落ちた刃は綺麗に分割されていて、その中心には鉄で編まれた綱で刃を繋いでいる。
「不気味だろう?だが、これは2年前に作られた魔剣さ。どこの誰が作ったか知らないけど、ま、ありがたく使わさせてもらうさ。」
 そう言った瞬間、川島は微動だに腕を動かす。すると、ぴくぴくとティアーユーズは呼吸するように動き始める。
「よう、偽者さん。」
 すると、光山の偽者だと思われる人間は驚いた表情をする。
「ちょっとまて、勝手に偽者扱いされては困るな。」
 いかにも光山らしい言葉遣いだが
「いやいや、うまく本物に化けたつもりだろうけど、僕の眼は誤魔化せないな。君がアレだろう?宵迷の山の魔物だろう?」
 ふと頭を下げる光山。それに緩矢と川島は悪寒を覚える。同時に、光山ではないと察する。
「くくくっ、こんなに早くばれているとは、よほど、そいつのことを知っているようだな?」
「ま、僕は仕事上、知っておかなくちゃいけなくて・・・・・・ね!」
 その瞬間、ティアーユーズは意志を持つかのように偽者に向かって刃を向ける。襲うは蛇の如く。しかし、空を翔ける蛇。その蛇は偽者の額目掛けて飛んでいく。
「「!?」」
 しかし、その鋼の蛇は偽者の眼前で見えない壁にぶつかるように弾かれる。
「残念だったな。」
 川島は柄を両手で持ち延ばすように引っ張る。すると、鋼の蛇は鋼の刃になって川島の柄に収まる。
「ぜやぁぁぁっ!!」
 今度は川島が剣となったティアーユーズを持って偽者に切りかかる。
 しかし・・・・・・。
「!?」
 またも見えない壁に弾かれる。
「ちっ!即効魔術(インスタントスペル)!闇の刃(シャドゥエッジ)!!」
 川島は一度退き、声をあげる。すると、彼の眼前に魔方陣が展開されて、黒い刃が偽者を襲う。
「甘いな。」
 すると、今度は見えない壁に命中すると、その場で黒い刃は霧散し壁から川島が放った黒い刃が精製される。
「反射魔法(リフレクトスペル)!?しかも、高度な!?」
「私は『防衛の万軍(ガード・フォース)』と呼ぶがね・・・・・・。」
 絶望的、そういえる可能性はあった。
「ま、とりあえず、光山じゃないってわかったんなら、容赦しなくていいわね。」
 そう言うと緩矢が口ずさみもせずに魔方陣を展開させる。
「4、3、2、1。いっけぇ!!」
 魔方陣からは川島とは間逆の光。白い刃が偽者を襲った。
「あちゃー、やっぱ、駄目かぁ。」
 すると、先ほどと同じ様に壁は光の刃を吸収して跳ね返したのだ。
「防御(シールド)!!」
 その言葉と同時に水晶のような壁が展開される。すると、光の刃が水晶のような壁と着弾と同時に爆散する。
「危ない、危ない。でも、どうやって、アレを破壊しようかしら…。」
「なんか、手段でもあるのかい?」
「全然、無いわ。」
 お手上げする緩矢に川島も溜息をつく。
「降参する?」
「見逃してくれるならね。」
 苦笑いをする緩矢。川島は「まぁ、そうだよね」という。元から期待はしていなかったようだ。
「来ないのなら、今度はこちらから行きましょうか………。」
 偽者は手を前に差し伸べる。瞬間…。
「アイテッ!」
 川島の左腕が吹き飛んだ。いや、ずり落ちたと言うべきだろう。しかし、出血している様子は無い。
「あーあ、腕取れちゃったよ。」
「「………。」」
 偽者、緩矢、含めての二人は驚いたような表情をしていた。痛みと言うものを見せない川島もそうだが、出血しない川島の体。この二つに驚いていた。
「全く、取り付け作業たいへんなんだよ。」
 ぷんすか怒る川島に偽者は苦笑いしながら
「く、貴様はあとだ!まずはそこの女!!」
 瞬間、腕を川島から緩矢に照準を変える。その瞬時の行動に緩矢も川島も対応が遅れてしまった。
『ここで、死ぬの・・・・・・?』
 そう緩矢が思った矢先だった。目の前の視界が黒くなった。
「全く、後方の後始末をしてから来たら、このザマはなんだってんだ。」
 目の前には赤い髪に黒いコートを来た男が立っていた。緩矢の視界にはその姿は雄々しく、誇り高く見えた。
「下がっていろ。」
 ぼうっとしていた緩矢に光山は厳格に言葉を放つ。緩矢はそれを聞いて、大人しく後ろに退く。
「ほぅ、本物のお出ましか・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 偽者は面白そうに笑うが、光山の厳しい表情は消えていない。
「・・・・・・直接反射魔法(ストレートリフレクター)。」
 その言葉にビクリとする偽者
「すとれーとりふれくたー?何かわかる?」
「さぁ?」
 緩矢と川島の頭上には?マークが浮遊している。光山は少し呆れ半分に
「ストレートリフレクター。正式名称:第一撃反射魔法術と呼ばれている。高度な法術になるんだが、直接攻撃に対するあらゆる攻撃を反射、無効化する法術だ。禁術には制定されていないが、魔法術師によってはこれを習得することで安全に長い詠唱(ロングリード)することができる。」
 緩矢はうんうんと縦に首を振りながら「なるほど〜」と感銘を覚えている。
「そして、この何者かどうかは知らんが、完全な透過魔法を使っている事を考えると高位な魔法術師だと通常は思うが、生憎、オレの感覚ではこいつは魔族だと判断するがね。」
 そう言うと偽者は小さく笑い出す。
「くくく、はっはっは!これは中々の人間達だ。いとも簡単に私の術を見破るとは・・・・・・おっと、こちらでは魔法術というのかな?」
 光山とは対照的に偽者を騙った魔族は黒い悪魔のような黒い羽を展開する。
「黒の羽か。なら、下級より少し上と言ったところか。」
 光山はそう言って剣を抜く。
「黒の羽って言うことは………光山も下級なの?」
 こっそりと緩矢は川島に質問する。
「いんや、違うよ。光山は別格さ。」
「人間如きが舐めるなぁっ!!」
 魔族は片手に魔力を集中させる。すると、槍のようなものが形成される。
「魔力形成による。魔法具の精製、容易にできるものではない。しかし、所々に綻びがある感じ、決して得意な魔法術ではないと判断する。」
「戯言ォッ!!」
 その説明的口調に魔族は魔力の槍を光山に投げつける。しかし、光山は左腕を差し出して振り払う。
「何!?」
 すると、どうだろうか?いとも簡単に魔力の槍は消し飛んだ。
「それだけか?」
「ちぃっ!!」
 さらに魔力の槍が飛ぶ。しかし、光山も左腕だけで対処できないのか、剣を引き抜いた。
「今度はこちらからだ。」
 言いようが無かった。完全無欠の速さ。一直線に走り抜ける黒と紅の影は魔族に迫る。
「く、来るなぁぁっ!!」
 魔族は焦って魔力の塊の数を増やす。しかし、無意味。連続で襲い来る魔道の力も彼の前では意味を為さない。襲い来る魔力の塊も見えないほどの速さで捌く剣の使い方に無意味だった。無数の塊も一刀両断される。
「未来、過去、永劫に在る意味を後悔しろ!」
 光山の体が魔族を貫く。
「・・・・・・。」
 魔族の背に立つ光山。魔族はぴくりとも動かない。そして、鞘を持ち剣を収める。静かに沈黙は完成した。
「ば、バカな。」
「相手が悪かったんだね。魔族の君。彼は僕らの世界では『赤と黒を司る使者』とも、呼ばれて監視下に置かれているんだ。」
 川島が言葉を告げる。すると、魔族は笑い始める。
「ふ、ははは!そうか。なら、私が敵うはずも無い。なんと言っても、奴は_____。」
 その言葉の途中に魔族の胸から銀の刃が生える。
「言葉が過ぎたな。ここには知らぬ事情の人間もいる。」
 そう言って銀の刃が引き抜かれる。そう、背後から光山は魔族を貫いたのだ。
「くふっ、かはっ・・・・・・。」
「終わりだ。」
 問答無用。その言葉が一様に正しかった。剣を鞘に収め、指をパチンとスナップすると魔族は炎の柱に包まれる。その炎の柱がなくなると間族の姿はなくなっていた。
「ど、どうしたの?」
 緩矢は恐る恐る光山に聞くが
「殺した」
 嘘偽りの無い率直な言葉に緩矢は凍てつく。それは重大な行為だ。命を奪う。何も殺害までしなくてもいいはずだ。
「何で殺したの?」
「・・・・・・。」
 口を閉ざす光山。何かの思惑を感じるが、答えようとしない光山。
「じゃあ、聞き方を帰るけど、殺すことに抵抗は無いの?」
「・・・・・・。」
 光山は沈黙を続ける。
「何か言ったらどうなの!?」
 何も言葉を口にしない光山に緩矢は怒りをあらわにする。
「なら、聞こう。質問に質問で返すには悪いが、なぜ、人を殺したと思う?」
「え、そりゃあ、気に入らなかったから?」
 苦し紛れに緩矢は答えるが、光山は重い溜息をついてから
「大局的だな。聡明すぎて反吐が出る。」
 光山はそう言って野営を立て始める。
「どういうことよ?」
「気に入らないから殺す?オレは殺人狂か?生憎、オレだって分別を持っている。命を奪うからには相応の理由は備えている。」
 そう言ってテントを建て終わらせて、ポケットから何やら文様が描かれた石を開けた場所に置く。
「Fire(炎よ)」
 そう言うと石が炎のように燃える。
「そういえば、オレが殺した理由だったな。それは貴様が知ってはならないことを知ろうとしたからだ。」
「なら、あの魔族じゃなくても私を殺せばよかったんじゃない?」
「御立派としか言えないな。もし、あの場で殺しても俺は奴を殺していた。オレが襲われないという確約は無いからな。」
 光山はそう言うと
「あーあー、素直じゃないね。はっきりと、あの魔族を生かしておいても他に被害が出るって大人しく____。」
 川島は言葉を止める。光山の眼光に殺意がある。しかも仕向けられているのは川島だけ。下手なことを喋れば、間違いなく切り刻まれるだろう。
「五月蝿い黙っていろ。」
「はいはい、わかったよ。」
 呆れたように川島は自分の腕をつけている。
「知ってしまうことで、巻き込まざるを得ないから・・・・・・。」
 ふと緩矢は口にする。光山はそれを聞き。
「・・・・・・なら、わかっただろう。厄介沙汰には首を突っ込まないに限る。」
「そんなの、あなたの勝手じゃない?首を突っ込むか突っ込まないかは私が決める。」
「・・・・・・勝手にしろ。面倒見切れん。」
「へぇ?」
 川島は二人のやり取りを見て感嘆する。
「どうしたの?」
「いやね。普段の光山なら突き放した性格をしているんだけど、今回は大人しく引き下がったなと、思ってね。」
「拒否しても着いて来られそうだからな。」
 光山は呆れた表情で夕食を準備していく。串に刺された干し肉にパンと質素なものだった。
「あ、おいしい。」
「そりゃ、光山御手製の干し肉にパンだからね。」
「凄いわね〜。家事ができるなんて・・・・・・。」
「自分の事は必要最低限はできるようにしておかないと旅など続けられない。」
 経験から言うのだろうか。妙に説得力のある言葉が緩矢を突付いた。

 翌日、光山達は目的地である次の街『遺跡都市カリウス』を目指していた。
「でも、どうして、私を連れて行く気になったの?」
 緩矢は突然、光山に質問するが
「なんとなく。」
「何も、即答で」
 即答で答える光山に緩矢は少し不快感を覚えるが
「嫌でも来るつもりなんだろう。止めても意味は―――――――――」
 光山はとっさに剣に手を掛けた。川島も剣を抜いた。
「ど、どうしたの?」
 緩矢は周囲を見て驚く。
「囲まれている‥‥‥わけではなさそうだね。」
 川島は銃を抜くだけで迎撃するつもりはないようだ。
「緩矢?走れるか?」
「大丈夫だけど?」
「わかった。川島がいいと言うまで止まるなよ。」
 光山は地面に手を押さえる。
「先に行け、俺が食い止める。」
「で、でも!」
 緩矢は逡巡するが、光山は緩矢を見つめるが
「‥‥‥なら、自分の身は守れよ。」
 光山はそう言って地面に念を込めた。それと同時に数十の黒い影が三人を襲ったが
「Wall(壁よ)!!」
 光山がそう叫ぶと、黒い影から三人を守るように地面から土の壁が這い出た。すると、黒い影は一度止まる。光山達からの視界ではその黒い影の正体を見破ることはできなかった。
「‥‥‥Roll!In Bomb!!(そして、爆発せよ!!)」
 すると、土の壁は黒い影だけに向かって爆発した。
「あーあ、逃げられた。」
 川島がそう言ったときには黒い影はなく、ただ、四散した土の塊だけだった。
「まぁ、いい。先へ行くぞ。」
 そう言って、光山は目的の道を歩き始める。



 光山達が入国したのは『遺跡都市カリウス』と言う。周りは崖に囲まれている。まさに弓などの格好の標的だが、それとは裏腹に中はかなり広い。そして、その中に幾多の遺跡があり、その遺跡の多さから『遺跡都市』という名を得られている。
 そして、中央にそびえる城があるのだが、そこは古代の城の名で『カリウス』と言われていたため『遺跡都市カリウス』と、言う名になっている。
「はい。了解いたしました。遺跡都市カリウス『光山 陣』『川島 昂一』『緩矢 詩穂』の入国を許可します。滞在期間は予定としては無制限。ようこそ『遺跡都市カリウス』へ!」
 光山達は入国を終えて
「あー、長かった!」
「30分も経っていないだろう。」
「いーや、あの待つ時間がだるいんだって!!」
 テンションの高い緩矢と川島だが、普段と一変しない光山
「そしたら、俺は物件を探してくる。おまえらもどうにかしろよ。」
 そう言って、光山は町並みに消えていこうとする。
「え?!住まわさせてくれないの!?」
「もちろんだ。一つ屋根の下に男女一組はいかがわしい。」
 そう言って、光山は町並みに消えていった。

 光山が向かった先は不動産屋だった。
「‥‥‥ここなんてどうだね?」
 光山と店の人間は物件表を見て問答する。
「うーん。少し学園から遠いな。」
「どこの学園に行くんだ?」
 興味本位で店の人間が言う。
「カリウス第二附属高等学校だ。」
「はい!?あの優秀だが評判の悪いカリウス2H.Sに行くのか!?」
 店の人間は光山を見て驚いている。光山も「優秀だが『評判の悪い』」と言うところに少し不安を覚えていた。
「ああ、問題あるか?」
「別に問題はないが、がんばれよ。にいちゃん。それなら、とっておきの場所を紹介してやろう。土地だけでいいと言ったから甘く見ていたが、家は建てられている。」
 そう言って二人が向かった先は、さほど悪くはないだろう。家並みは中流階級と言ったところか。
 1階は玄関から入れば右に居間と台所が一緒になっているフロアに出る。階段は目の前だ、そのフロアと階段の間にトイレがある。
 2階にあがってみると部屋が三部屋ある。そのうちの一部屋は玄関の真上にあるところだ。後の二部屋は今と台所のフロアの上になっている。だが、部屋はそのフロアの4分の1ぐらいだ。そして、その二部屋の先はベランダとなっている。
「ふむ。ここにさせて貰うか。」
 光山は何度も頷いて納得している。
「悪くないだろう?」
「ああ、悪くないな。家賃は?」
「ここは、12万ルシンで売っている。」
 ルシンとはこの世界のお金の単位である。
「‥‥‥うむ。そしたら、荷物とかは?」
「一切ない。」
 光山は手のひらを大っぴらにして言う。
「そうか。一応、手続きがあるから、明日、明後日からになるが‥‥‥。」
「別にかまわない。12万ルシンは明日になる。」
「わかった。私も極力早く済ませよう。」

 そして、光山は『撲殺の天使亭』と言う場所で2泊することになった
「‥‥‥なんで、おまえたちがここにいるんだ?」
「えー、だって、お金ないしー。」
「行くところないしー。」
 緩矢と川島は声をそろえて言う。
「‥‥‥今回だけだ。」
 光山はボソリと言うとベッドに入って睡眠にふける。
「けちー、別に住まわさせてもいいじゃない!」
「働かざる者食うべからず。」
 そう言って、光山は緩矢達を背に横になる。
「・・・ん?」
 緩矢はふと光山の寝ているベッドの傍にあるテーブルに目を向ける。そこには伏せられた写真立てがあった。
「これは?」
 持ち上げて緩矢が写真を見る。そこには黒い髪の女性と男性がいて、その周りに取り巻く子供達がいた。その中には黒い羽根が生えた子供もいた。
「あれ、写真がもう一つ。」
 その写真立てはスライド式で、それをスライドさせると、もう一つ写真が現れたが正確には似顔絵が描かれていた。
「綺麗‥‥‥。」
 緩矢の目に入ったのはスケッチされた紙で整った顔立ちで黒いロングヘアーのおしとやかな女性であった。
「何を見ている。」
 光山が突然、こちらも見ずに緩矢に問いかける。
「え!?あ、なんでもないですよ!!アハハハハハ!!」
 とっさに写真立てを戻して緩矢は言うが‥‥‥。光山は横になりながら緩矢に振り返りテーブルを確認する。
『あ、ヤバ』
 そこには伏せられているはずの写真が立てられていた。
「‥‥‥見たのか?」
「え、あ、うん。」
 光山の言葉に緩矢はおどけて返事をする。
「‥‥‥仕方ないか。何もするなとは言っていなかったし。次、このような事があれば出て行って貰う。」
「は、はーい。」
「で、一つ質問だ。この写真立てに似顔絵も入っていただろう。その女に見覚えはないか?」
 緩矢は人差し指をあごに立てて
「うーん。わからないなぁ。」
「そうか‥‥‥野暮なことを聞いて悪かった。忘れてくれ。」
 そう言って光山は今度こそ眠りについた。

 光山は転校するカリウス第二附属高等学校の校長室に来ていた。
「君が、この学園に転入する『光山 陣』君ですか?」
 そこには小太りで白髪白髭を生やした優しそうな男性がいた。
「はい。」
「なにやら、家族の残した遺産で、妹さんを探しているようだね。前の学校も、手がかりが無くなってこちらに来たと聞いたが‥‥‥。」
「ええ、あちらには有力な情報を得るだけ得たので」
 光山はソファによそよそしく座って言う。
「そうですか。ここで見つかるといいですね。」
「ええ、私もそう思っています。」
「では、入ってください。」
 校長がそう言うと一人の男性が入ってきた。その男性は整った服装で厳格なイメージがあった。
「オルエンス・イルディーヴァ先生です。魔術基本を専門しています。」
「よろしく頼む。私のことはオルエンで構わん」
 オルエンはそう言って光山に言う。
「はい、よろしくお願いします。」
「では、ついてきてくれ。私のクラスを紹介する。」
 オルエンが先導して光山は後に付く。
「友達を作るのも学弁に励むのも大いに結構だ。だが、留年だけは避けるように‥‥‥。」
「もちろん。そのつもりです。」
 光山はそう言う。そして、少し学校の話をしてオルエンのクラスに到着した。
 オルエンは光山に少し待つようにと言う。
「では、入ってくれ。」
 と、聞いて。光山は中に入る。すると、男の生徒は少し残念そうにため息をする。女性はそれなりに黄色い声を上げる。
「今日から、このクラスに入ることになった『光山 陣』と言います。よろしくお願いします。」
 光山はそう言って一礼する。
「光山は生き別れになった妹を捜している旅学生だ。少しでも情報があれば彼に提供してやって欲しい。」
 旅学生とはこの世界ならではで各地を転々としながら、学校の授業を受けるという学生のことであるが。その旅学生は厳しい審査を受けて行かなければならない。自己管理、判断能力等と様々な条件が要される。そして、旅学生は衣服の行動性の問題で私服による登校が許可される。
「では、あの席を空いている。フィルシア、光山に教科書を見せてやってくれ。」
 オルエンは窓際で一番後ろの席の隣にいる女学生に呼びかける。
「は、はい!わかりました!!」
「では、あの席に座ってくれ。」
 光山がその席に向かうと
「よろしくな!シスコン!!」
 と茶々いれる男学生がいた。その言葉に周りの男子は笑うが、光山は涼しげな顔で無視して通り過ぎる。
「おい!ちょっと待てよ!転校生!!」
 グレンと言われる男学生は立ち上がって光山の肩をつかんで振り向かせようとするが
「やめないか!グレン!!」
 オルエンの言うことも聞かずにグレンが光山の肩をつかもうとしたが、光山の肩には当たらず、空を掴む。当の光山は既に席に座っていた。
「よろしくね。光山君!」
「あ、ああ、今日の間はよろしく頼む。」
「うん!」
 と、フィルシアは和気藹々と言うのだが光山は少し、おどけている。

 そうして、授業が始まる。光山の受ける試練は?探している妹は見つかるのか。旅はまだ始まったばかりである。


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